野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(10)頸椎の観察

I先生の次の言葉から第10回は始まった。「前回までは、ごく大雑把にからだの各部分の処を行いました。そこでは訓練された指で体が読めるようになる、ということが目的でしたから、少々下手にやっても害はなかった。繰り返し練習しても安全だった。そのかわり、あまり効果も期待できないかもしれない処の練習をまず説明し、練習してきたわけであるが、今回からはより実用になるよう、実際に操法できるよう、もう少し掘り下げて処の説明をしていきます。」

 

脊椎

背骨はその中に脊髄があり、頭から神経中枢になっている。そして背骨と背骨の間の椎間孔という小さな孔から神経が出て、体中に分布している。背骨には間接突起というものがあり、上下の間接突起でつながっている。

体の中の神経の支配している傾向は、背骨の状況を見ればわかる。また、脊髄反射といって、右手を温めると、左手も暖かくなるといった現象があり体の働きを変化させている。このように神経に異常があると、背骨の位置が狂い、背骨の両側の筋肉にも変化が起こる。これはイギリスのグリホンが見つけたものだが、内臓に異常があると、背骨の両側の筋肉が硬くなる。そして、その筋肉を刺戟すると良くなったり、悪くなったりして病気に影響を与える。背骨に内臓の影響や筋肉の一部の緊張のし放しの状況というものが、みなここに現われる。

そういうことから背骨を調べるカイロプラクティックオステオパシーとかスポンディラセラピーというものがアメリカで行われ、それが日本に入っていろいろな形で拡がっている。(註:野口晴哉整体操法読本 巻一総論」に内外の手技の歴史に関するきわめて厳密、詳細な記述があるので、参照されたい。)

整体操法でも、からだ全体における背骨のもつ意味を考えると、それが人間の体の中心をなしていると考える。人間の体構造は、腰椎二番と三番と腹部第三の中間(丹田)が中心になっているが、そこに力がなくなると背骨が曲がってきて中心の力がずれてくる。そこの力が満ちてくると背骨に力が出てくる。したがって、われわれは背骨の状況を手指で丁寧に観察し、さらに背骨の転位が生じる前の変化を相手の感受性の状況も含めて観察する訳である。

 

背骨の数え方

解剖学の分類にそって、まず上から見ていく。肋骨につながっていない首の骨を頸椎といい、七つある。哺乳動物はキリンのように長い首でも同じ数である。そのことを利用して犬でも猫でも異常を調整できるが、魚や虫、草花は操法するのは無理であるが、触手療法に依れば可能である。生きているものであればすべて愉気によって対処できる。

整体操法での背骨の問題は哺乳動物にしか通用しないので狭いと言えば狭いが、心理療法、潜在意識教育となると今度は人間にしか通用しない。人間でも頭の良いのでないと難しいので、範囲はさらに狭くなってしまう。

肋骨につながっている骨が胸椎で、十二ある。その下に腰椎が五つ。仙骨というのは五つあるが、固まって一つになっており、一個一個の可動性はない。尾骨は一ないし五ある。成長につれて多くなるが、標準は四つ。

 

頸椎の観察

相手が息を吐いている時に触る。筋肉が弛んでいる時にソーっと触ると、筋肉を通して骨の形がわかる。硬直して調べにくいときは緩めてから調べる。

背骨に触れて一つ一つ観察することは難しいことだが、整体操法の効果を確認したり、体運動の経路を辿っていくためには不可欠の課題である。

頸椎は七つあるが、棘突起は六つしかない。神経は八対ある。一番最初に触るのが二番である。四番は普通では触らないが、前屈すると触る。普通に調べて触らない骨の次が五番である。

頸はいろいろの変動を現している。心配しても、勉強しすぎても、食欲がなくても、陰気になっても頸は硬くなる。欲しいものが手に入っても、頸が硬いと嬉しくない。頸が柔らかくなった頃笑う。そこで嬉しくなる。あまり快感でない事柄は全部頸が硬くなる。どこかに不快なことがあると眉間にしわが寄る。するとお尻の穴が弛む。頸椎を調整する場合、お尻の穴が弛んでいると出来ない。お尻の穴が閉まっていることが頸を調整する条件。ものを考える場合でも、頸を曲げた方が考えやすい。ただし、左にまげているときは、起きていても頭の中は眠っている。このように、頸を調べるときは、頸だけと思わないで、心の全体を読むつもりで調べる。

頸の筋肉を弛めるためには、仰臥で調べる。その緊張度合いをまず見る。つぎに頸を左右、回転をして転位状況を見る。

頸椎の一側

ここを調べるときは、ソーっと触るように押さえる。できれば愉気で気の異常を感じていく。そこが硬い時は、頭が緊張したり疲れている。まれに目や鼻がくたびれて、その刺激で大脳が緊張していることもある。必ずしも大脳ではなく、間脳の異常というか頭へ何か集注している時にも起こる。碁を打っていると小便がしたくなるとか、心配したら食欲がなくなったとか、胃酸過多になったというのは、みな間脳の異常である。

頸椎を調べるときは、命や心の一番大事な処を調べるつもりで丁寧に行うこと。頸は大事なところで、心臓をナイフで刺しても死ぬとは限らないが、首を切って生きているという人はいない。頸が一番死に関係があり、心臓や胃といった臓器にも直接関連がある。また、頸は肛門とも関係する。溺死でも、肛門の開いている者は活を入れても助からない。痔なども心臓の病気で、左の腰椎さえやれば調整できる。試験であがる時でも、度胸のないものには肛門を締めることを教える。度胸のある者は、肩を上げて後ろに反らせて下すことを教える。

頸の弛みの悪い人は、後頭部が下がっているから、下がっている方を上げるようにすると、上がっている方が下がってきて揃う。上がっている方を上げると頸はいよいよ硬くなる。(頸上の操法

吐く息ごとに押さえていって、それを止め、次の吸うときにズーっと持ち上げる。それに伴ってお尻が上がる。そこで息を吐き切った時に静かに一緒に放すと、頸も一緒に弛んでくる。

次は頸椎の二側を調べる。横突起が出ている処は狂っている。異常がある時は、一側と二側が揃っている。二側を触って悪い、一側も悪い、それは異常と考えていい。そこを押さえて、いろいろ頸を動かして変化するようなら異常ではない。

頸椎の三側は三か所しかない。ここは骨とは関係はない。上頸、中頸、下頸で触ると、中に固まった感じがある。中頸は偏頭痛に効果あり。甲状腺などの分泌関係、片方の顔面神経が鈍っている時。前にまわって、後ろ側をゴリっと押さえる。下頸は前にやってゴリっとやり、そのまま真下に押さえる。ここはみぞおちが硬いと固くなる。つまり第四が硬く感情のたかぶり、食べすぎなどに関係。臓器が悪くて肩が凝る時、肝臓、心臓、呼吸器みな関係。上頸は頭の血行の関係。能活起神法の処。脳貧血、脳充血、脳血栓みなここを押さえる。押さえていって固まっている中に米粒のような固まりがあれば、それが異常。なければ硬いだけで、その時だけの変化である。これが見つけられれば有段者である。この塊を硬結と呼ぶが、これは小さいほど悪い。

 

鎖骨窩(一番、二番、三番)の操法

一番 普通は頸の操法をしていると頭がスカッとしてくるが、中に頭の血が下がらず鬱血してしまう人がある。そういう人は、鎖骨窩を左右調べると、普通はへこんでいる処が硬くなっている。一番の処。

一番は、風邪やインフルエンザ、呼吸器の悪い時にもここが硬くなる。それで呼吸器の悪い人でこれがある人は、頭痛や頭の鬱滞をあまり感じない。ところが頸の操法をすると、それを感じる。操法して二日ぐらいすると、頭が痛くなったとかグズグズ言い出す。そうしたら一番の処を押すと、大抵は調整される。ここは、肺の中に入る脈管運動の場所に関係する。だから喀血したときには、絶対に押さえてはいけない。ドーッとひどくなる。逆に、肺炎の時ここを押さえると、急速に改善する。

二番 手の血行に関係する。脈の止まる処。手がしびれる時。止血。手のけが。

三番 肩に感じる。肩の凝りがとれる。

鎖骨窩に異常のある人は、頸や頭の操法を長くやってはいけない。

頸椎は敏感で狂いやすいので、絶対に力で押してはいけない。異常を見つけたら、ある角度をとって愉気をする。愉気をやってきちんと頸を整えると、たとえ下手にやっても二時間は睡眠が減る。食物も減る。そして体の栄養は充実する。