野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(20)救急操法

I先生、「前回までは整体操法の理論を、実習を交えて説明してきましたが、今日は一休みして、救急操法を通して、具体的に生活の役に立つ技術をお話しします。」と前置きして、第二十回目の講習が始められた。

 

救急操法

脳活起神法(気絶に対する操法

相手に呼吸があって、意識がない時に用いる。打撲による気絶、痙攣、ガス中毒、自動車事故などで意識不明になったもの、脳貧血、日射病による気絶など。これらはみな、頸椎二番を操法すればよい。痙攣でも、延髄の血行の問題でも、みな二番に関係している。延髄に血が行かなくなると気絶する。頸椎二番にショックを与えると、血が流れて意識が回復する。やり方の要点は、痙攣している時は、頭の異常のある方を下にして痙攣するから、その下になっている側を先につかまえる。

頭痛や頭重の場合は、頸椎二番をゆっくり操法すればおさまる。そこを長く圧迫すれば、記憶力が悪いとか、頭の働きが悪いという傾向を改善できる。

 

鼻血の救急操法

首から上の出血は踵を蹴る。仰臥にしておいて、片方の足をストンと落としてもよい。子どもの鼻血は、頸椎の五番と四番の間をトンと叩く。それで止まらない場合は頸椎七番を叩く。眼底出血や目の充血は、七番と踵を叩くと出血が止まる。

 

耳の異常

中耳炎、難聴、乗り物酔い、耳に虫が入った場合などは、頸椎四番の硬くなっている側の真横から押さえる。要領は、押さえて、片方の手で角度をとって、顔を上に向ける。それで口を大きく開けてもらう。四番は、口を開いて、もう一つ開こうとすると、。硬くなる。次に「はい、ふさいで」と言って、ふさぎきらないうちに放す。

 

寝違い

頸の二番と四番を押す。先に二番をやってから四番を押す。

 

胃痙攣

胸椎の八番から十一番までが縮んでいる。それを伸ばすように押さえていく。下から上に押し上げるようにするのが要点。十一番からやって八番まで押していき、六番の右一側を押さえておく。

 

脈で見る異常の兆候

子どもが打撲した時は、まず頭を打ったかどうかを見なくてはいけない。普通は、脈を見る。頭を打つと、大抵はそのとたんに、ドキーン、ドキーンと引く脈が強く感じられる。打つ脈の時はたいしたことはない。急所を打ったり、生命にかかわるような異常の時は、引く脈を打つ。

 

溺れる

救急の場合、溺れても二、三十分以内なら助かることがある。まず肛門を見る。肛門が拡がって指を入れても閉まらない、ズブズブだという場合は難しい。指を入れても入りにくいようなら助かるとみていい。一番重要なことは、水を急速に吐かせるということです。特に、川やプールで溺れたのは、海で溺れたのより早く死ぬ。真水を飲んでいる場合にはお臍の真後ろの棘突起の間、つまり腰椎二番三番をショックすると水を吐く。

水の吐かせ方は、伏臥にして、みぞおちを押さえ、持ち上げていってストンと落とす。大体二、三回やれば吐く。ストンと落とすその勢いが早ければ吐く。しかし、本当の急所は腰椎二番と三番の間を押さえる。あるいは、みぞおちを膝の上に乗せて、二番と三番の間をトンと叩く。水を飲んでいない場合でも、この伏せの方法で五、六回やれば大抵は生きてくる。いよいよ危なくなってきたら仰臥で臍の下の第三整圧点を、フーッ、フーっと押さえる。要点は、相手にフッと息を吸わせることです。吸わせるために、最初に細かくフーッ、フーっといっぱい吐かせ、放した勢いでフーっと吸わせる。そういうつもりで、グーっと押していって放す、というのが要点です。水を吐いて呼吸し出したら、脳活起神法を行なえばいい。(人工呼吸でもいいが、活とちがって、正常に復するのが遅い。)

 

足がつる

親指の根元をつまむ。これで止まらない時は、膝の裏。自分でやる場合は、腰椎の三番の捻れさえとればいい。ねじる運動をする。

 

針、ガラスが刺さった時

仙椎二番の穴をショックすると出てくる。

 

(参考:整体操法に於ける救急操法整体操法読本 巻三 各論」。以下の引用は「野口晴哉著作全集第三巻中期論集一」p.191~193より。)

痙攣せる者には頸椎活点を整圧する。整圧し乍ら、その顔を正面に向けしめ、且つ顎を伸ばしむる如く引く。そして又整圧の度を加える。高所より落ちて気を失える者又同じ。仮死は胸椎四左を強圧し、弛め又力を加える。坐さしめて行う。この処置で息かえらざる者は胸椎八右及び腰椎二、三棘状突起を強打する。次いで腰椎二、三の間に膝を当て、相手の左手を右肩に引き乍ら膝に急に力を入れて強撃する。息かえりし後、頸椎活点の操法をする。溺死せる者に対する救急法は、この他に腹部活点の整圧を行なう。この法は仰臥せしめ膝を立てしめおきて腕頭部にて活点に急なる掌圧を加え、圧したるまま耐え、しばしして弛め、弛めるとともに又力を加え、このことを三回くり返す。

呼吸困難なる者に対しては頸部活法を施し、後胸椎三棘状突起外側を整圧する。靖まる気配を感じたれば直ちに上肢活点を整圧する。

急なる出血に対しては頸椎七の叩打整圧に次いで、上肢第六整圧点を整圧する。丹毒に対しては上肢五、六整圧点及び活点を整圧する。この操法は面疔その他の化膿する傾向の急なる場合に用いて奇効がある。盲腸炎、肺炎、中耳炎にも用う。

急なる中毒は腹部第一禁点左の整圧を行なう。静かに指を当て徐々に力を加え、加え切ったところで耐え少し弛め、又力を加える。後、下肢足部食指後の強圧を行なう。但しガス中毒の場合には背部活点を行う要あり。

急なる小児痢病には腹部第二活点の整圧を行なう。活点硬結部右脇に指を当て徐々に力を入れて耐え、急に弛め又力を加えて耐えて、硬結の移動を感じたれば腹部第一活点をを静かに整圧する。

脳貧血、脳充血は上頸交感神経節整圧を為し、上肢活点整圧をつづけて行なう。脳溢血の場合之に準ずる。

胆石痛は胸椎九右を強圧し、制痛後に腰椎一右を整圧する。胃痛は胸椎十一左を整圧し、制痛後腰椎を整圧する。盲腸痛は腰椎二右、卵巣痛は腰椎四、その他の腹痛は下肢活点整圧を行なう。

中耳炎の痛みは頸椎四及び足踝内側下の整圧にて制止し得、同時に中耳炎そのものの治療を為すことが出来る。

歯痛は頸椎二、三の整圧に次いで、頸部静脈を抑圧し、上肢二、七の整圧点操法を行なう。激痛には腹部操法を行なう。三叉神経痛又同じ。

脈の不整つづく場合には胸椎四左、頸椎二両側を整圧する。心悸亢進は腹部第四整圧点を静かに整圧、愉気すれば靖まる。心臓強化は腹部第一禁点左によって為される。その整圧は実地に於て学まねばならぬ。

捻挫は輸気によって自ずから治る骨折も多くの場合同じ。脱臼は強くその関節の角度に従って引き、急に弛める。しかし之らも実地に於てその手技を学ばねばならぬ。

過労は胸椎九、十、過食は胸椎五、六、過眠は頸椎二にて調節出来るが、之らは救急操法とはいえないが臨機に用うるも宜しかろう。