野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(27)腰椎三番の左右偏りの調整

私たちのからだについて、これほどまでに豊かな彩りで語りかけてくれる野口晴哉氏に、いつもながら畏敬の念を抱いてしまう。学校などではついぞ耳にしたことのない言葉の群れ。マスメディアからは甲高い声で、日々流れてくる「早期発見、早期治療」の大合唱。生化学による詳細な分析数値にもとづいた食養のすすめ、サプリメントに健康茶。最後には「専門医にご相談ください」と必ず言い添える、近代医学を身にまとった東洋医学風の、その実は刺戟ー反応を求めるだけの、性急な補完的対処的メソッドのかずかず・・・。もちろん、それらについて何事かを言う知見など私にあるはずもないし、それが現代の日本の姿であってみれば、とやかく言う筋合のものとも思えないのだが、素直な感想を言えば、どうもそこに流れる言葉には、「いま、ここに、生きて生活している私たち個々人の具体的なからだ」から発せられる強靭な意思のようなものとか、生き生きとした具体的なその表情とかいったもの、あるいは本来あらゆる医療の前提となっているはずの個々人に息づく生命力などについての、信頼感のある温かみのこもった優しい言葉というものを見出せることが少ないように思えてならない。むしろ、何かいたずらに不安感を増幅させ、自分のからだの主体性を専門家という他者に譲り渡すことばかりを煽られているように感じてしまうのは私だけだろうか・・・。そんなことなどを考えながら、今日も講習会の記録を始めます。

 

台風のシーズンになると喀血が多くなる。呼吸器の悪い人が一斉に悪くなる。神経痛やリュウマチの人が一斉に悪くなると雨が降る。雷が鳴る時は、肝臓の悪い人は一斉に悪くなる。逆に雷を非常に怖がる人の肝臓を縮める操法をすると、怖がらなくなる。気象条件と体とは関係が深い。雨を例にとれば、湿気が多くなって皮膚がふたをされる、すると皮膚から発散されるものが出なくなって、神経痛やリュウマチの痛みが多くなるのではないか。また、泌尿器や呼吸器の弱い人たちが、皮膚に蓋されることによってその負担が多くなる。それが痛みの多くなる理由ではないだろうかと考えたことがあるが、百年考えても本当の理由は判らないと思う。

人間以外の生物でも、理由は判らないが水の来ない場所を知っていて巣を作るという現象は良く見受けられる。我々が操法する場合にも、理由は判らないがそういう事実がある、ということがある。

たとえば、いっぱい食べて胃袋が満杯になると、腰が曲がってくる、それは腰椎二番が胃袋の収縮中枢になっているので、胃袋を拡げようとするとだんだん屈(かが)んでくる。老人の場合、腰が屈んでくると、まぶたが下がってくる。この腰の屈みと、まぶたの下がりと食べ過ぎとの関連を考えると、よくわからない。

食べ過ぎると眠くなってくる、というのはなぜか。腰椎二番が過度に緊張してくると、それが飛び出してきてその関連でまぶたが下垂する。まぶたが重なって閉じたことによって、眠くなった、という空想を起こす。そこで眠る。

食べ過ぎて眠くなるというそれだけのことでも、腰椎のまぶた下垂反射と、それから生じる無意識の連想、意識して連想しているわけではないが、無意識で連想すると、その連想の速い人ほど早く眠くなる。上下のまぶたがくっつきそうになっても、眠らない人はその連想力が鈍い。では、どういう体癖の人が早く眠るのだろうか。上下、開閉、左右の順に眠る。そうなっても余り眠らないのは捻れ、前後。だから体をみていても連想力の速さは見当がつく。

同様に、湿気に弱い人はリュウマチとか呼吸器が弱い人、というふうに特定のものは見やすいが、そうでない普通の体の状態の人の場合は、湿気に影響されやすいのは捻れ傾向の人、気圧の変化に弱いのは前後の人、逆に気圧の変化に強いのは開閉、気圧の変化と無関係なのは上下と左右というように体を見ていくと、いろいろ面白い問題がある。

結核の人は頬が赤くなる。どういう理由かはわからない。頬っぺたと呼吸器には関連があるが、その理由は判らない。もっとも、誰でも頬は赤いのですが、その赤いのが歳をとるとだんだん上に上がってくる。そういう変化していく赤みは、生殖器や腰の動きに関連がある。赤面症のように頬が紅潮しやすいというのは、また別の問題がある。いずれにしても、関連があってもなぜそうなるのかは判らない。

胸椎十番を刺戟すると視力に変化を来たす。眼の病気の時は胸椎の十番。眼縁に関連するのは肝臓、眼球に関連するのは呼吸器。だから、呼吸器の悪い人が眼球の故障を起こすことが多い。

大腿骨の骨折のあと、視力が低下する。その時、眼に愉気すると骨折の繋がりが早くなり、視力にも影響が出ない。これも大腿骨と眼とが関連していることを示している。では、呼吸器の異常の場合に眼を押さえたらどうなるのだろうか。風邪の場合や、神経痛様の場合、眼に愉気すると痛みがなくなり、風邪が早く抜ける。非常に早く抜けるだけでなく、風邪を引くたびに視力が回復してくるという現象もみられる。

 

腰椎三番の左右偏りの調整方法(練習)

練習や実際の操法の場で、やる方も受ける方も、何かゴタゴタしてしまうというのは、呼吸が合っていないためである。やる側は、まず息を吸いこんでから手をつけていく。吸い込んだまま吐かないで手をつけ、たとえば相手の腕を引っ張る。相手は緊張してフッと息を止める。そうしたら、今度はこちらは息を吐いておく。待っていると、相手は息を吸わなくてはいけない。止めている時間が長ければ長い程、ちょっと弛めるとすぐ吸ってくる。その時、こちらは息を吸いこんでいなくてはいけないが、力の入れ抜きで相手の呼吸はリードできる。その呼吸をリードするということが一番大事で、いつも呼吸のことを意識して練習する必要がある。特に、手をつける前に息を吸いこんでおくこと。これができれば、どのような操法の場合にも、ゴタゴタしないでうまく出来るようになる。

特に、人間は息を吸いこむ場合には、腰椎三番に力を入れると体が緊張してくる。すると体がピタッと決まった感じがする。その逆に、三番の力を抜くと、途端に弛んでしまう。相手の頭や上頸を操法する時にも、相手の三番を押すようにすると、お尻が持ち上がってくる。三番が伸びていないと、持ち上がってこない。

 

人間の体の中心は腰にあるといってもいい。だから腰椎三番の力を抜いたり、そこに力を入れたりしさえすればいい。この講座の最初にやった手の第一の型を使って、その練習をしてください。

 

腰椎三番は、操法を行なう場合の急所であり、始めに相手の三番の状態を見ておく。三番が上がっている場合、腸骨は閉傾向を現し、下がっている状態は開傾向を示している。三番が右に偏っている場合は右傾向、左は左傾向。三番が飛び出している場合は、前後傾向。ただ、捻れ傾向だけは腰椎三番で見るのは難しい。というのはそこが硬く動かない状態になっているためです。

 

操法する前に、相手に伏臥になってもらい、体全体の力が抜け弛んできてから、腰椎三番の状態を調べる。そしてその転位状態から、相手の体癖の傾向を確かめます。三番のこうした転位は、相手の運動特性によってもたらされたものであり、また逆に言えば、その転位が、その人の運動特性をもたらすとも言えます。体癖現象というのは、要するに体の中心に集まるはずの力のちょっとしたずれから生じてきたものなんです。このずれから生じた歪みが、体癖現象と言っているものです。

 

腰椎三番の転位状態をピタッとつかまえられるようになると、その体のどの方向に狂いが生じているかが判ってきます。例えば、ある人は右肩が痛い、お腹も右が痛む、脚も右というように、体の右半分に狂いが多い人の三番は、右に転位しています。足が冷たくなり、頭が熱くなるという人の三番は上方に転位しています。

 

ではまず伏せにして、腰椎三番をいろんな角度から指で動かしてみます。力が集まっている側が動きにくくなっています。上下傾向の人も、閉傾向の人も、ともに三番が上に転位していますが、それを区別するために胸椎五番を確かめて、それが飛び出しているようなら、その人は上下傾向があると考えればいい。慣れてくれば、そんな確認をしなくても、ジーっと見ているだけで見当がつけられるようになります。

 

腰椎三番が、左右のどちらかに偏って転位している場合、腰椎二番の左右の偏り状態を確認します。そして二番と三番の偏りが、左右逆になっている場合には、前にやった、足を引っ張る操法をします。そして両方が一緒に戻ったら、今度は腰椎三番の硬い方を対象として調整します。

上記とは逆に、腰椎二番と三番の偏りが、左右同じ側に偏っている場合は、相手を仰臥にして、足の硬い側の第二指を引っ張ります。そして、仰臥で先と同様に、硬い方の足を引っ張る操法を行ないます。そのあとで、伏せになって、腰椎三番をソーっと動かしてみると、今度は素直に動くようになります。

以上が、三番の左右偏りの調整法です。もう一度、繰り返しになりますが、三番がどちらかに偏っている時、逆の二番が硬い時は伏臥で、同側の場合は仰臥で操法します。これをやると、その直後に、曲がっている処、力の入る過ぎている処など、体のいろいろな故障が鮮明になってきます。

相手の異常を見つける場合、あちこち悪い処があると、操法がやりにくいので、異常のなかでも本当に悪い処だけを浮かび上がらせることが有効ですが、今日やった調整法は、そういう意味でとても役に立ちますから、ぜひ憶えておいてください。

整体操法を設計する場合に、まず腰椎の三番の転位状況を確認し、今日やった調整法を行なうと、次に行う操法が簡単になってきます。もっとも、風邪を引いたとか、熱が出たというような急な変動が出ている場合は、それ自体がすでに悪い処の浮かび上がりとなっているから、あえてこの手順を踏む必要はありません。

今日は左右傾向に対する調整だけでしたが、いずれ機会をみて開閉・上下・捻れ傾向についてもその調整法を順次行う予定です。これで今日の講義を終わります。