野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

「整体操法高等講座」を読む(22)婦人操法(2)

今日は婦人操法の第二回目です。私はちょっと脇道にそれて、三木成夫(しげお)氏の『胎児の世界 ー人類の生命記憶ー』(中公新書1983.5.25)と、最相葉月(さいしょうはづき)氏と増崎英明氏の対談本『胎児のはなし』(ミシマ社2019.2.4)の二冊を同時並行で読みました。前著書はその帯に、養老孟司氏が「三木さんは、今まで出会ったなかでいちばん破天荒でスケールの大きな先輩だった」と推薦の言葉を寄せています。

後の本には、増崎氏の序文冒頭に、三木氏の『胎児の世界』に感銘を受けたとして次のように書いています。「子宮という「見てはならぬもの」の扉を開けて、胎児の変身に生命進化の記憶をたどった、解剖学者・三木成夫(1925-1987)のロングセラーです。私はこれを二十代の頃に読んで、深い感銘を受けました。生命の太古の記憶から書き起こされた詩的な内容なのですが、人間の胎児の標本を入手してその相貌に迫っていく過程は、ミステリーの謎解きに伴走しているようで、心臓をばくばくさせながら読んだことを覚えています。」と。

両著ともに<胎児>をめぐる人間の生命の不思議が、三木氏繋がりで語られていて、とても興味深いものでした。<男>である私が、少しでも<女>を理解できるようにならないと、当然のこととして野口氏の<婦人操法>の理解も浅いものになってしまうに違いありません。

 

整体操法高等講座」(22)婦人操法(2)(1967.2.5)

最近、人間の体の変化が早くなってきている。十七歳で初潮があるという時代が、私の一番覚えている時期であります。それが十五、六歳にあるようになった。一般に月経が始まる時期は、北の国よりも南の国のほうが早い。

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歴史を見ると、北の民族がだんだん南へ行って、南でぼける。つまり人間的な能力が欠けてきて、動物的な傾向だけ 強くなってきてそして亡んでいくということを昔からやってきている。気候の良いところに居を構えて、暮らしも自由で、田畑も豊かなので動かなくなり亡んでいく。日本にいながら南国に近づくことが良い事か悪い事か判りませんが、警戒を要することがないとは言えないと思います。

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ところで、女の場合は、男と比べて感じたことと行動とがくっついていることが多い。

男は仕事とか、観念とか、知識とかいうもので別の角度になっている。しかし女は、女である時期の影響を受けやすい。性になるエネルギーが頭に行かないで、感情に行くような場合は喜怒哀楽が激しくなる。子ともに向かって本気で腹を立ててしまうというのは、エネルギーが閊えた状態です。分散しないでみんな鳩尾に来てしまう。

そういう場合には、<一側>の線がズーっと緊張して、胸椎の六番に、あるいは八番に行く。頭に行けば理屈っぽくなる。腰椎三番に行けば我慢ばかりするようになる。

そういうように、体を丁寧に読んでいきますと、捨てきれなかった性がどこ転換しているかという事が判るようになる。

男の場合は、それが一旦頭の働きになって、そのあと腰に帰って行けば正常なんですが、腰に帰りそびれて感情になったり、運動になったり、いろいろしたくなったり、喧嘩したくなったりというような転換をする。それも同様に<一側>に現れてきます。

 

そこで、そのエネルギーの行き来、転換する場所を知っておきませんと、体の観察としては不備があるということになる。

 

この<一側>の変化を見ることが出来ないと、これからお話しすることが全部出来ないことになってしまいます。

この間から指導者の人達にテストしてみますと、的確に<一側>を掴まえている人が少ないのです。

一側のすぐ脇に筋肉の硬直したのがありますが、それを一側だと思い込んでいる人がとても多い。

もっとも、その脇の筋肉を一側とみて操法しても、効果は同様にあるんです。だから技術としては思い違いで操法してもそれほど問題はないが、観察という面では判る判らないが決定的になってくる。

そこで、本物の<一側>の触り方を、改めてここで練習して頂こうと思います。

<一側>がちゃんと触れるようになると、観察の道も開いてくると思います。

 

骨盤が右屈したり左屈したり狂いがありますと、仙骨と腸骨の境が異常を起こしてくる。それは仙骨をおさえている腸骨の圧力が、左右違うという事です。

片方がくっついちゃったり、落ちちゃっている。

ここの調整を行うと、<一側>は明瞭になってくるのです。これをこのままにしておくと一側の全体が筋肉のように硬くなってしまって一側が読みにくいのです。

それから、頭の、頸上の一、二、三という場所が硬くなっていますと、やはり一側が読みにくいのです。一本になってしまっている。

ですから、<仙骨部>の周辺の操法、<腸骨>の周辺の操法、<頸上あるいは後頭部>の操法というものが、一側を調べるに先立って重要になってきます。それらを操法すると<一側>の線が浮かび出してくる。

上からくる方は男、女の場合は下から上に行く<一側>がどこで途切れているかを見れば観察ができる。

 

女の病気にもいろいろありますが、その九割五分くらいは、生殖器の能力の問題です。一つは発育不全の場合、一つは無知による自発的要求に拠らない行為によって生じる場合、一つは妊娠に対する恐怖がある場合、一つは性欲を解決して妊娠しまいとする行為によって起こる場合。この四つの面から見ていかないと解決がつかない。それ以外の病気は<これら四つを原因としていないもの>というふうに一括りにみれば形はつくので、これら五つを会得すれば、大体女の体の観察は出来るわけです。

前の四つは<一側>によって読んでいくものですから、一側の問題をまずキチンと仕上げておこうと思うのです。

 

(観察)

やり方を説明いたします。ちょっと坐って下さい。こっちでいいです。ちょっとお辞儀をしてくれませんか。はい、結構です。

判りますか?右と左と差があり、左が平らであり、右が上に行っている。右の腸骨の方は生きているが、左の腸骨の方はもう平らになっちゃっている。乾いてきている。だから、両方が左のようになったら、もう卒業時期なのです。ところが女というのは死ぬまで卒業しません。男はいい加減で卒業するのに、女は死ぬまで女です。・・・

今話をしているうちに、だんだん体が左に曲がって傾いてきたでしょ?だからときどき右に体を動かさないと、長い間には曲がってしまう。左右のバランスはそんなような処から起こってきます。

平らになっている方は、前屈傾向を持っています。だからこういう場合には、左が前に行く。前に行く度合いが、左の方が強い。そこで体が右へ、右へと捻れる傾向になってくる、動作すると。

腰椎から上でそういった右屈や左屈が出ても、一向に構わないのです。それはまあ普通なんです。ところが仙椎部から歪みが起こってくると、そういうような女の機能と直接関連しているとみなければならないので、右屈や左屈といっても、それが腰なのか腸骨なのか、仙椎なのか、股関節なのかといった区別が必要になります。

誰でも初めは腰椎で調節しようとするのですが、それがだんだん下の方で調節しようとしてくるのです。終いには恥骨を前に出してこんな格好で歩いてくる。これは全部ここへ集めたのでして、本人は腰が曲がったのでこんな格好をするのだと思っている。

 

はい、うつ伏せになって下さい。そこで仙椎部をみます。仙椎が下がっている平らな方を操法いたします。寝るとあべこべになりますね、平らな方の骨が小さいんです。さっき小さく見えた方が、伏せになると大きくみえる。下がっているのが右だと、結論がでるのです。緊張しているとこっちが下がっている。そういう差のあるうちは、まだ正常なのです。

腸骨の周辺のこれを下に下げる方法、あるいはこの中に指を突っ込んで、腸骨をはがす方法というのが、この場合第一の方法なんです。

それからこの仙椎と腸骨の境の処、仙骨に孔があいている処があります。孔のすぐ外側、ちょっと痛いところを押さえますと、それを仙骨に沿ってこう押さえていくんです。こちらはあまり痛くないけれども、こちらは痛いですね。悪い方が痛い場合には、まだ回復する可能性があるということですが、この部分を尾骨迄押さえていきます。痛いところがある。それはいろいろ意味がありまして、後で説明いたします。

ともかく、操法としては、これをこう押さえる。尾骨のつながり目の処まで押さえる。だいたい片側、悪い方だけでいいです。Tさんの場合は、左側がみんな痛い。痛いが快痛でしょ?。ここを押さえる。ここは特に生殖器お能力に一番関連のある場所で、それはそのまま一側の変化に連なってくるんです。

一側が硬くて触れないという場合には、仙椎のこの部分に特別痛いところがある。骨が膿んでいるように感じる痛いところがある。そこを押さえる。これを何回か押さえていると、すっかり弛んできます。若い人の一側は探しやすいのですが、歳をとってくると判りにくい。

仙骨と腸骨の間にある、このハート形の部分をまず押さえることをやってみて下さい。押さえる前に、一側を調べておいて、やる前と後とではどう変わるかを確かめて頂きます。

これは発育不全を治すのにも、早漏を回春させるのにも重要な場所ですが、今日は一側の変化をはっきりさせる処とお考えになってやってください。

 

ここに腸骨の模型がありましたので、これで覚えて頂くと、この縁(ふち)のこれではないんです。ここに筋肉がありますから、この縁の内側をこう押さえていく。この縁にこう押さえていくと、この筋肉の内側に触っていく。ただ、ここに異常があるのは、この骨を触ると、それが膿んだような痛みがあります。だから、そういう意味では<硬結>ではないんで、相手の痛みの感じを主体にしてこの縁を内側へ、内側へと押していって、それを続けていく。これを外から押すのではないんです。内側に押す。

それから、<一側>と申しますのは、腰椎の場合ですと、この骨のすぐ縁の筋肉に線があるんです。麻の紐のような、アキレス腱のように何本もの線が一緒になっている。それが筋肉にくっついているんです。その筋肉を一側と勘違いする人が多い。筋肉は一つになっていてバラバラにはならないのですが、<一側>はその内側にあって、はじくとバラバラになるんです。それを観察する。<一側>をずーっと押していって、ちょっとえぐるようにするとバラバラっとなっているのが判ります。そこに指を当てて、ちょっと引くと見つかります。見つけてしまえばこうやるだけでも触れるのですが、それまでは相手にまたがって、重さをかけて、かけたままで骨に沿ってえぐるようにこうやると、触れます。私は椎骨の縁をバラバラと触るだけで、一側の何処に異常があるか見つけてしまいますが、なれればそうやって触れるようになります。

ただ、バラバラになる処は異常のないところです。異常のある処は、一つに固まってしまっていて、その外側の筋肉と一緒になってしまっている。力が余ってしまっている場合も<一側>は固まっています。

もう時間が参りましたので、今日はこれで終えましょう。次回までに、皆さんで練習しあって、今年中に一側の問題は片づけてしまいたいと思います。見方だけでなく、発育の遅れをどうやって促進するのか等の面を具体的に覚えて頂かないと、女の操法になりませんから、その面で少し急ぎたいと思います。一月の計画は先にいって立てますが、もう余り日がないので、少し急ごうと思います。どうぞなるべくお家で練習して、高等講習を終えたが一側がどれだか判らないというのでは困りますから、どうぞそれをはっきり確かめておいていただきたいと思います。ではこれだけに致します。

(終)