野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶⅡ(40)頸椎ヘルニアの操法

整体操法の思想や技術を少しずつ順を追って学んでいく。そうすることで初めて見えてくる世界というものがある。朧気ながら感じられてくるにすぎないが、なぜ私が野口整体にこれほど惹きつけられるかという理由もきっとその感じの中にあるはずだ。そして野口氏が対機説法に重きを置き、一対一の関係を重視し、一人一人の個性や感受性を最大限に重視することの意味もまた、そうした学びの過程から見えてくるはずだと思える。それは、相手の命に向き合うことの厳粛さとでも言うほかないものだろう。

 

I先生「中等講座での技術は、機とか度といった目には見えないものを使って調節するということが中心なので、実際に練習の中で会得するしかないものです。だからノートにとって後で記憶するという問題ではない。かといって、機とか度というものは、実際の場面でのことですから、練習でやるということも難しい。練習では、あくまでも異常を想定してやるしかない。想定ですから、上手くやり過ぎると壊してしまう。だからと言って、壊さないようにということばかり気にかけてやっていると、単なる初等の型の技術になってしまう。そう言う点に注意しながら進めて行ってください。」

 

頸の異常、ヘルニアとかすべり症とかいろいろ名前がつきますが、ムチウチ症を例にとると、原因は自動車の追突の場合が一番多いが、追突でなくても、頸の前後運動というのはおよそ六十度の角度の範囲で動くのだが、それがガクッとぶつかると七十度以上瞬間に動く。そうなると不完全脱臼を起こす。そのために頸椎六番と七番の間が狂ってくる。前後の運動ですから、七番が動きます。ハッとなって縮むとその動きと一緒に六番も重なってそうなる。そして痺れから始まっていろんな変動が出てくる。

そこで胸椎六番、七番を調節すればよいわけであるが、処と型という問題からいえば極めて単純なものである。だから初等技術を覚えた人が、遮二無二ガンとやれば治ってしまうことが多い。ところが呼吸の間隙に力を加えるとか、抜くとかいう中等の技術を使うとなると難しくなり、呼吸の間隙を狙うと失敗することが多くなる。初等技術だけ修得したした人より、一時的にだが、成績が上がらなくなる。けれども失敗しても、中等技術でやった場合は、相手を悪くするということがひとつもない。

整体操法というのは、積極的に治すことよりも、まず相手を悪くしないということを心がける。百人操法しても一人やり損なったらゼロになる、と考えるのがわれわれが通ってきた道である。いろいろ難しい病気の人ばかり来て、それらが治っていって、それが当たり前になる。ところが一度誰かをしくじると、それっきり信用するより警戒するようになる。そういう試練を先輩たちは通ってきているから、殊更に失敗することを警戒するのですが、中等技術としては、まず失敗しないということが基本となる。

呼吸の間隙をつかまえる、という練習をするのもそういう意味合いもある。一時は難しくて一見下手になったように見えても、やりそこなって相手を毀すということが無いようにするためです。

 

ムチウチ症にもどりますが、それに症状が似ていても頸椎六、七番の異常でない他の頸椎異常というものも沢山あります。例えば頸椎二番の異常。これは頸が動かなくなる。曲げることも、左右にも、捻ることも出来ない。特に左右の動きができない。

二度寝して寝違いを起こしたというのは頸椎二か四の異常。頸が捻れないという場合の頸椎四番を調整すれば治る。異常が頸椎四番が異常の場合、頸椎二番を調整しておいてから四番をちょっとショックすれば極めて簡単に治ってしまう。ムチウチが一回で治ったというのは、この頸椎二、四によることが多い。

頸椎七番は、七番自体を調整しても治らない。そのため胸椎の三番、二番を調整すると七番が治りだしてくる。

狂った処を直接押さえて治すということは、余程の高度な技術がないとできるものではない。今の段階でそのようなことを考えるよりは、頸椎二、四の異常は頸椎二番で治す、六番の異常は四番で治す、七番の異常は胸椎三、四で治すというように憶えておくと判りやすい。

 

これらの異常を一番うまく治せるのは触手療法だけをやっている人で、愉気を遮二無二やっているうちは天下無敵である。ところがそういう人が、一旦レントゲンの写真を見たり、指で触れて故障を見つけ出そうとし始めると、急に治すことが難しくなってしまったり、治せなくなってしまう。だからあまり高等な技術を知らない方がいいと言えるかもしれない。しかし、触手療法だけでは、必ず行き詰まりが来るのも確かである。その行き詰まりを突破出来るようになるために、一時的に下手になったと見えようともそこを突き抜けて行こうとするわけである。

 

さて、頸の異常の処と対処すべき骨の問題を見てきたのですが、ではその椎骨をどう調整するかというのが次の問題です。そのためには二側を確認します。頸椎にヘルニアを起こす人の多くは、異常の椎骨の二側が硬直している。しかしその二側の硬直を調整してもなかなか治らない。そう言う場合、一側も硬直している。

一側が硬直する理由は、一つは大脳が緊張したまま疲れてしまっている状態、もう一つは体のエネルギーが余ってしまって緊張し、体に力が一杯に入って抜けないような状態のどちらかです。一側の硬直は一つはエネルギーの大脳昇華の過程、いま一つは、大脳緊張によるストレスが反映した処に生じてくる。いずれにしてもそのために一側や椎骨が硬直しているので、二側だけの調整では変化しないのです。

いずれにしても頸椎ヘルニアを起こすような人は、そういう傾向がある。頭の緊張過剰が原因となっていて、頭皮がブクブクに弛んでしまっているか、逆に硬くなってしまっている。硬くなってしまっている方が大部分で、それを弛めるようにすると、一側は大体弛む傾向になってくる。

そこでまず腰椎の一側に硬直がある場合、その準備として頭皮の操法を行なう。それから一側の硬直を弛めます。一側が弛んできたら、頸椎二番の二側の操法をやると治ってしまう。一側が弛まないうちは駄目で、前回一側を弛めずにやったのはやり過ぎて壊さないためである。一側を弛めないでやれば、骨はめったに動かないから練習にはいい。そこで一側の型だけにしてきたが、今日は一側をやってから二側の操法に移ります。

二側を使って頸を治すことが難しいのは、ちょっとした力で骨が動いてしまうことにある。一側を弛めたら最後、ほとんど力を入れずに動いてしまう。その反面、本当に狂っている処はなかなか頑強で動かない。腰よりももっと頑強である。何でもない処はちょっとしたショックでサッと狂ってしまう。本当に狂っている処はなかなか動かないというのが頸椎の特徴である。精神分裂を起こしている人の頸などを調べると、頑強で絶対に動かない。普通の人の頸を押さえると、ちょっとでサッと治って、放すとまた元に戻ってしまう。治りが早いのは戻りが早い。頑強なのは全然動かない。そこで頸椎の調節というのは、余程上手にならないとやれない。

地方の整体指導者で上手だと言われているのは、頑強な処をやってまぐれで上手になっている人が多い。技術的に細心の注意を払って、技術を洗練した結果上手だという人は少ない。本来、人間の体を触る場合は、必ず吐く息の速度に乗って押さえないと柔らかに触れない。ところが、ここが狂っている、と言うと、「何処、何処」といきなり押さえる。そうなると相手は反射的に抵抗が起こるが、それは駄目で、いつ触られたが判らないようにサッと触れるのが上手なのです。おかしな恰好をして相手の隙をを窺っているのは下手である。

地方の人の鈍い体をやると、技術を洗練することより、強引にやった方が、時に自信があるかのように見えて信頼を得ることがある。地方で大勢治している指導者が必ず上手かというとそんなことはなくて、たまたまその地方に合っているとか、受ける人たちの鈍さがその指導者に適当であったとかいうことが多くて、技術の洗練度ということとなるとまた別の問題となる。

この中等講座で学ぼうとする人は、力ずくで事を運ぶような考えでいてはいけない。力を使わないで、相手の力で調節していくようにしないと、機とか度というものが活きてこない。

 

練習

普通寝違いは、頸椎二番をおさえれば四番を押さえなくても治ることが多い。今日は、頸を回してみてうまく回らないという人をモデルに選びます。あるいは、頸を思いっきり左右に倒してみてうまく出来ない人。横に倒そうとして捻れてしまう人。

モデルが決まったら、頸椎二番の棘突起をまず触ってみます。その棘突起のすぐ脇の一側を押さえる。相手が息を吐くと弛んでくるから、弛むにつれて指をスッと中に入れて、硬い処を外側に弾きます。その時頸は捻じらないで真っ直ぐの位置を保つ。

一側の硬結は見つけにくい人が多いが、頸椎の一側は胸椎の一側よりも見つけにくいのです。まず、胸椎の一側を触ってみて下さい。椎骨が飛び出している処の一側は大体異常がある処です。そしてその一側にを真下に押さえて弾く。すると一側を触っているすぐそばに筋がある。骨のすぐそばに硬くなっている筋がある。大きく分けるとその筋が二本ある。内側の筋は頭から下りてくる線、外側の筋は下から登ってくる線。更にその外側にもう一本筋があるがそれは違います。

胸椎一側で見をつけたら、内側の線を上に辿っていくと、その突き当りが頸椎二番の一側です。そして、この二番の一側を押さえて愉気します。一側を外側に弾くようなつもりで、角度を少し上に向けます。反対の手は相手の前頭部の生え際に当てておきます。顔に当ててはいけない。そしてちょっと動かす。そのまま愉気をする。そしてそこの筋肉が弛んできたら、今度は二側に指を当てる。これを同じ角度で前に押す。ちょっと押すと体が持ち上がるから、指を当てたままちょっと戻す。頸椎二番が下がって、頸椎三番にくっついて頸が動かなくなっているので、それを治すのに持ち上げて、決めて、手をつけたままおろす。これが要点です。上手になると、ひとりでに相手のお尻が上がるが、最初はなかなか上がりません。無理に上げないで、上げるつもりだけでいい。頸ですから上げるつもりで十分に効きます。上げるのではなくて、上がる。強引にやらない。

これが一応出来たものとして、次は頸椎四番です。仰臥でやります。頸椎四番から捻れるように捻ります。ちょっと上に角度をとって、いっぱいまで捻っておいて、ここでほんの少し動かす。一回ボキっというのがいい。バリっバリっというのは駄目である。四番が狂っている時は、一回だけ音がします。この練習は、なるべく体の柔らかい人でやって下さい。年をとっていない方がいい。要点はあまり頭を持ち上げないように。上に上げると五番の方に行ってしまう。

念のために言っておきますが、ボキっとやっても、起きるとまた元に戻ってしまいます。めったに狂いが後に残ることはないが、音がしない時は狂いが残る。治したのに

元に戻っては困るという場合は、仰臥で、治ったと思ったら、そのままにしておいて、肩の前の処を押さえる。それから今度は肘の内側、口内炎の処を押さえる。それからもう一度型の前の処を押さえる。上手くいったと思ったらこれをやっておく。駄目だと思ったらやらない。

肩の硬い人は頸が治りにくい。狂っていても音がしない。そこで前もって肩をやっておくと動きやすくなる。これを一回練習して下さい。

 

次に、頸椎四番の坐位での治し方について説明します。

相手の腰を押します。押したところで膝を相手の腰に当てる。両肩を後ろに反らすように持ってきて、頸をそっと持ってくる。いっぱいに曲がるところまで持ってきて、それからちょっとショックする。その時に肩を少し前に出すように手伝う。必ず傍までくっつけておいてから、速度を速くちょっとやる。これで四番は治る。これをすると耳が聞こえないような場合でも、一時的に聞こえるようになる。治る時はボキっと一回だけ。いっぱいに曲げて、曲げ切ったところでほんのちょっと動かす。その時、肩を前に押さえてやるのがコツ。力がポッと止まらないといけない。力が流れてはいけない。また、腰を押していないと失敗する。

相手が緊張して力を入れているのに強引にやると、四番が治らないで、六番を狂わしてしまう。狂っていない時はボキっと音がしないのが当然で、狂う時は知らないうちに曲がっていくのに、治る時はボキっという。

ところが、ムチウチ症のような場合には、曲がる時にボキっと音がしたという人がよくあります。こういう人をやる時は、これは曲がっていないんだという前提でボキっと音をさせることを目的にやるといい。「あっ、ボキっといいましたね」と、本当は音をさせているのだけれど、「音がしましたね、聞こえましたか」と言うと、相手は聞こえたと言う。自分の頸だから聞こえる。それでそのまま何も言わない。下手に「治ったでしょう」と言うと、また痛い痛いと言い出す。それにつられてやっていると、本当に悪くしてしまう。ボキっと音がして頸が曲がらなくなったと言う人は、その音がしたから曲がったんだという錯覚を持っているんです。観念でそうなっている。だから音だけさせて、そして治ったと言わないで、「音がしましたね」とだけ言って、そのままほおっておけば、自然に治ってしまう。大体治ったが、ここがまだ変だ、という言葉につられて、もう一回やると狂わせる。一度やってよかったら、もうやらないこと。相手につられてやってはいけない。

曲がる時は黙って曲がるが、治る時はボキッと音がして治る。よく、病院にも行った、指圧にも行った、でも治らないという人がいますが、そういう錯覚で曲がったと思っているだけで、本当は狂ってなんかいない。だからこちらとしては、敢えて音だけさせればいい。その場合、ほかの骨だってかまわない、音さえさせればいいだけである。

相手が音に気付けば、こちらは黙っている方が本当はいい。相手が「音がしました」と言っても、「ああそうですか」と聞こえなかったふりをして、そのままで通す。意地が悪いようですが、そこで「良くなった」とことらが言ってしまうと、その時だけで、あとは治らないのです。

相手は、まず自分のなかで、壊れたと思った。そして治ったと思った。それをことらに訴えようとした。だがそれを封じられた。そこで何か訴えたい感じが残った。頸が緊張した。治った。そこで治った、ということです。

 

操法して良くなった時に、相手にそれを伝えてよい場合と、伝えない方がよい場合とがあります。特に、頸椎がボキっと音がして狂ったという人達には、伝えないことが重要な要素になります。

実際これは面白いもので、頸の神経痛の場合、こういうことが多い。こちらはケロッとして相手に治ったことを言わない。相手が音を確認したら、何も言わない。音が聞こえなかったら、「音がしましたね」と言って、相手が「はい」と言ったら、それっきり忘れてしまって、どこか離れた処、足でもギュッと押さえておく。痛いと思うと、それで終わってしまう。そうすると言えないで通る。言えないというのが頸を保障するんです。

その逆に、本当に狂っている人は、言いたいことを出来るだけ言わせてしまう。頸がこわばっているけれど、ぺらぺら喋っていって、言い終えた頃になるとそこがヒョッと弛んでくる。それは息を全部吐いてしまった時なのです。その吸う前に、ちょっと押さえると、ボキっといって治る。言いたくて言えない時は息を詰めているんです。相手の言い分を聞いて、弛んできた時にヒョッとやると治ってしまう。

この操法の成功失敗は、相手が弛むかどうかによる。相手が不安で警戒している時は必ず失敗する。しかし、呼吸に乗って操法するということを覚えれば、一側でも二側でもうまく触れるようになる。これは中等の技術の最初の問題です。

この操法は、頸のリュウマチや頸の筋肉が硬くなっている場合やそこが腫れている場合にはやらない方が望ましい。そういう場合は、二番、四番の二側を上げるように押さえます。そうして相手が息を吐くのと同時に放す。これで頸の痛みがなくなったら、その翌日にガクッとやっておくと、極めて簡単に決まって、保つようになる。その日のうちに矯正しないことが要点になります。

頸を、相手の呼吸を無視してガクッとやると壊します。華やかにボキボキやるのは下手な人のやることで、ショックする場合にも、少ない力で目的を達するようにするのが上手です。カイロや柔道整復の先生などは力があるのでバキバキやることがあるが、そうすると六番を毀してしまう。追突されたことがないのに、ここが狂っているという場合は、そういうことを疑ってみる。一旦そのようにして毀したものは、治すのに非常に時間がかかり面倒です。人工的に毀したものは、これまで見てきたような手順で治すというわけにはいかないのです。それから、椎骨の手術をしたという人の場合も非常に厄介です。長く時間をかけてやっても、効果が不明瞭である。だから、そういう場合、操法を引き受けるのは余程用心する必要がある。また、ギブスで固定してあったものは、筋肉が萎縮してしまっているから、外して何もしない時間をおいてから手をつけた方がいい。

今日の練習では、ガクッとやる時の呼吸の問題、度合いの問題を中心に説明してきましたが、肩を押さえること、肩が下がってしまうのは、腰が伸びていない場合が多いので、必ず腰を十分に伸ばして、力を肩の処で揃えてやることに注意してください。

 

今日はこれまでとします。