野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶⅡ(49)肩の緊張を弛める

I先生「前回、体を弛める方法一つとして、腹部操法をやりましたが、体を弛める方法は他にもいろいろあります。すでにやってきた肋骨挙上もそうですし、後頭部への愉気を用いることもある。いずれも呼吸の問題を通して、弛めるという練習をしてきました。なぜ体を弛めることが必要なのか。それは深い眠りを誘導するためである。

ところが、弛めたつもりが、まだある部分にこわばりが残っていることがある。弛めてなお残る弛み切らない部分、それが偏り疲労です。本来なら体全体が緊張したり弛緩したりを一緒にしているはずなのに、一部分だけ緊張している。みんな使いすぎた処は、偏り疲労を起こすのです。そこで、今日は肩の観察と、弛んでいない処があれば、その弛め方について、練習を通して学んでもらおうと思います。」

 

練習

肩を見る時は、坐位で調べます。左右の肩のどちらが弛んでいないで、緊張しているかを見ます。手を上に上げてもらえば、弛んでいる肩の側の手は、すーっと上がります。

次に、上げた手の角度を変えてみる。どの角度だと弛まないか。肩と言っても、前の方だったり、後ろの方だったり、下頸の方だったりといろいろあります。

緊張部分が見つかったら、それに相応する頸の骨を押さえるのが、一番早くそれを弛める方法です。

肩の緊張した処を直接押さえると、いよいよ硬くなってしまう。

だからほとんどの場合、頸椎にその処を求めます。頸椎二番の場合、四番の場合、六番の場合がある。そのどれに相当するかを見つけて、その部分を押さえて肩の緊張が弛むかどうかを確認してください。

頸椎三か所を全部やってはいけない。一か所に絞る。肩自体の硬直は頸椎二番、筋肉を使いすぎている場合は四番、腕の系統の疲労は六番であることが多いです。

ただし、頸椎をはじめから触らないで、肩の硬直部分の状態を確認して見当をつけてから触って下さい。

硬い側に当てる。その逆側は弛んでいる。頸椎二番で両側とも硬くなっているのは、頭への血行がうまくいっていない。

硬い方に手を当てて、逆の手で前から受ける。これを相手の呼吸より少し早くやると、お尻が持ち上がります。相手の呼吸より遅い場合、頸が曲がるだけである。早くやると上に逃げる。逃がしてはうまくいかないので、肘で肩を押さえてしまう。そうすると相手は、腰で逃げる。相手の腰が反ってくるように押さえる必要がある。

操法で「押さえる」という時は、相手の逃げていく力を、途中で遮断するということで、遮断する速度が強さになるのです。力だけでぎゅうぎゅ押すのではない。

頸はわずかのショックで狂うから、まず腰を使って「押さえる」練習をし、それが出来るようになってから頸でやるようにするといい。

まず、坐位のままで、相手の腰のこわばった側を押さえてみる。これも旨く押さえることが出来れば、腰が持ち上がってきます。相手の呼吸より少し早く押すのは同じです。

それが出来た人は、こんどは頸でやってみる。力は腰の時の十分の一でいい。

押さえると相手は緊張して息を止める。その息をフーっと吐かせる。そしてもう一度押さえて呼吸を止めてから、そのまま少し耐えさせる。そしてパッと放す。押さえてから放すという順序で相手の呼吸を誘導し、相手自身の力で体中が弛むように操法していく。

頸椎二番は月末で首が回らないもの、寝る前に考え込んでしまって寝ると、起きた時に頸が回らない。四番は頸をどちらかに曲げた拍子に動かなくなったもの、六番は頸が痛くて全く曲げられないもの。いずれも椎骨が下がっているから、角度を少し上に向けるようにして押さえる。

妊婦の場合はうつ伏せになれないので坐位でやるが、頸のリウマチのように頸が動かせない場合や寝違い、夏に汗をかいたままクーラー冷やして頸が回らなくなったという場合も坐位を用います。坐位に慣れてくると、頸を弛めるということに関しては、その方がやりやすくなる。うつ伏せでやるというのは、一つには治療的な意味をもっている。うつ伏せというのは結構難しい形なのですが、うつ伏せで、手を脇に下げて、絶対的無抵抗という形を一度はとるということで、相手からの信頼度を確かめることに役立つのです。つまり、うつ伏せでの操法というのは、相手の感受性の状態を診断する為であって、操法の為ではないのです。操法の効果という面で言えば、坐位の方が有利なんです。特に腰椎ヘルニアなどは、うつ伏せでぎゅうぎゅうやるより坐るか経ってやるほうが骨が動きやすいということがあるのです。

 

そこでちょっとギックリ腰、腰椎ヘルニアを立って操法することを練習しておきます。

対象は腰椎一、三、五番です。押さえると、相手は背伸びするような格好になる。背のびしたところを、逆の手を前からピタッと当てて、それから落とす。

この場合の要点は、相手の肩を上げておく。相手の背中側に立って、相手の脇の下から胸の前に手を入れていくと、肩を上げた状態になる。これをやっておくと、相手が重くない。脇の下から肩を持ち上げられると、相手は力を入れられなくなり、その状態で前に押せば、相手の体をスッと持ち上げられる。一度やってみて下さい。

 

高等技術としての潜在意識教育(気を外す)

腰痛などを一度で治すと、それが癖になるから、相手が飽きてくるまで、じりじりしてくるまで待って、そのときにサッと治すようにすると繰り返さない。繰り返させないことが理想です。一分でも早く治りたいという気持ちがあるうちは、治らない。相手の治りたい治りたいという気持ちを外す、ということが操法に於ける技術です。そういう気持ちをうまく外すことが出来れば、その途端に治すことができる。

治す技術があっても、相手がそこを治してほしいとずっとそこに気を集めているうちは、それを押しても治らない。その気を外すことが大事なことなのです。

相手が、治らない、駄目だ、とふと気が抜けた時が、多くは治しやすい時なのです。

だから自然に気が抜けるのを待つか、積極的に気を抜くかするとすぐに治せる。

操法の上手下手というのは、押し方の技術ではなくて、いかに相手の気を外すかにあるのです。

触手療法でおっかなびっくりやっているいちは大抵は治ってしまう。壊すのは技術に自信のある人達で、自信を持ってガっとやると大抵やろ損なう。技術があるのに、気をどかしておくということをしない為に、どかす技術がない為に、効果を発揮できない。相手が早く治ろう、早く治ろうと意気込んでいる時は駄目である。「これは駄目だ」と言うと、気が抜けて治ってしまうことがある。そういう気の抜き方が大事で、本当を言えば、操法は気を抜く技術から始まるのです。

気を抜く方法にもいろいろあり、言葉による方法もあるが、ここでは、ギュッと押さえて行って、息が一杯になった時に放して、もう一回放す。そうすると今度はどこで放しても気が抜けるようになる。放しておいて、気を抜いておいて、もう一回狂っている部分に緊張が行くように押さえる。

別段、直接押さえる処で気を抜く必要はなく、足で気を抜いたり、手をちょっと引っ張ってそこに力を入れて、腰の気を抜くというようにしていけば、案外考えているよりは物理的なことで気を抜くことが出来る。しかし、なかにはそれだけでは気を抜くことが出来ないときに、相手の期待を裏切っ見事に裏切って気を抜くとか、他の部分に注意を集めるというような方法をとることもある。相手が余りに早く治ろう、早く治ろうとするのは、 期待ではなくて焦りである。そういう場合に気を抜かないと難しい。

まあ、そういうことも考えながら練習をして下さい。

今日はこれで終わります。