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未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(25)整体操法の型について

I先生「この二か月間の講座のお休みはいかがでしたか。これまで行ってきたのは整体操法の型の基礎的なこととか、操法に於ける処といったものでしたが、次に問題になるのは、それらを具体的にどのように使っていくかということです。では、さっそく始めましょう。」

 

型は操法ではない

足が悪いから足の型を使うのだろう、頭が痛いから頭の型を使うのだろう、というとそうではない。お腹が痛い時に背中を押さえた方が却って経過が早いということがある。だから、どこか悪い処があるからその部分に対して型を使うということではない。そうではなくて、相手の体全体の状況に応じて、どの型をどう使うかを決めていく。

大事なのは、型を上手に使うということではなくて、相手の体に対して、型を上手に使い分けていくことである。ある個所の押さえ方の上手下手が、型の上手下手を決定するわけではない。もちろん、型が要らないかといえばそんなことはない。型通りきっちりとやらないと、力も出ないし、気合もかからない。型が身についていなければ、だらだらしてしまってピタッと決まらない。指を当てても、指で押している。体で押していない。型でやると重みがあるので、放すと相手はフーッハーと息を吸いこむ。だから急に放しても反応が起こる。指先だけで押している人は、パッとやったつもりでも、相手の体はやる前と同じで、少しも動いてこない。それは型で力を加えていないからそうなってしまうのです。

型を身に着けているかどうかによって、先に行って、二・三年経つと、その差が判然としてきてしまう。だから、型はきちんと身につけねばならないが、型が操法だと思い込んで型ばかりやるのは本当ではありません。

 

型とは何か

型とは形式のことではない。相手を操法するに際して、自分の位置が決まっていること、相手の体を自由に動かせる状態のことをそう呼ぶ。そして、操法という動きの中心が、前にも述べたように、自分の丹田に力が集まっている状態を言う。丹田に力が集まっていないまま型を行なったり操法したりすると、疲れが激しく、ついには自分の体を壊してしまう。

ただ、この丹田に力を集めるということは、意識的にやろうとするといろいろな困難にぶつかる。たとえば、力を集めようとして腰を伸ばすと、こんどは鳩尾が硬くなってしまう。今度はみぞおちの力を抜こうとすると、お腹の力も一緒に抜けてしまう。また、気張って丹田に力を集めようとすると、肩に力がはいってしまい、そのまま動かないでじっとしている分には特に問題が起きないが、自由に動くことができなくなって、操法の流れが途切れてしまう。

みぞおちの力を抜き、肩の力も抜いて、臍下丹田に力を集めて自由に動作するということは、訓練しなければなかなかできるものではない。

ただ、丹田に力が集まってさえいれば何事もすらすら自由に出来るようになる、という人がいるが、そんなことはない。丹田に力を集めたために、動きが拘束されてしまう、ということだってある。

大事なのは、丹田に力をあつめたり、その力を抜いたりが自由にできる、粘りのある状態を身に着けることであり、いつも力を集めっぱなしに動作していると、体を壊すことにつながってしまうのである。

これまで深息法とか合掌行気法とか気合とか、いろいろな方法で丹田に気を鍛錬する方法を練習してきたと思うが、それらのいずれにも共通していることは、意識的に気を集めるということであって、その逆の意識的に気を抜くということは行われていない。自由に気を集めまた気を抜く、ということが出来ないのに、集めることばかりに一生懸命になると、いわゆる気張った状態になってしまい、体に無理を生じてきてしまう。大抵の人は、疲れてくると無意識のうちに気を抜いているのでいいが、まじめに気張ってやってしまうと体を壊すということに注意してください。

今日は、ちょうど小麦粉を水で練ると粘りが出てくるように、自分の腹や腰をきちんと決めて自由に動けるようになるための訓練方法を紹介しておきます。

 

合掌行気の訓練法

この訓練法は、合掌行気を通して行うが、同時に愉気の力を高める効果もある。

まず、正坐する。そのとき足の親指は重ねないで、指先を接するだけにする。第一動と第二動の二種類を交互に行う。

 

第一動 

両手掌は眼の高さで、親指を目線の高さに合わせて合掌する。腰を伸ばし、背骨で呼吸するようなつもりで呼吸する。顎はひいておく。肩に力を入れないで、長く静かに呼吸する。深息法の時のように無理に呼吸を入れる必要はない。腰を伸ばすことによって、お腹がへっこむ。この自然にへっこんだ状態で、気はやや腰の方へもっていく。

 

第二動 

合掌している手を乳の高さまで下げる。同時にみぞおちの力を抜き、腰を落とし、腹を自然に張る。肩の力をすっかり抜き、顎は少し上を向く。腰の力を抜くことにより、今度はお腹が張って力が集まってくる。静かにこきゅうしながら、呼吸するごとにお腹が張ってくることを感じとる。

 

この一動、二動を交互に三十秒続ける。それを一セットとして、五十回繰り返す。最低五十分行なう。その理由は、脈拍は普通一分間に七十二回として、五十分だと三千六百回打つことになるが、脈は三千六百回毎に全身の毛細血管まで廻り、三千六百回毎全身のリンパ管を出入りするということからである。だから、最低でも五十分間、というわけである。

これを毎日一回から三回セットで、一か月続けると、みぞおちの力を抜いた状態で、腹と腰に均等な力を集めることが出来るようになる。

 

 

(参照:本ブログ「整体操法の基礎を学ぶ(11)」も合わせて御覧ください。)