野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(8) 胸部調律点とその操法

整体操法は、昭和20年前後に、療術各分野の大家とされる十数名の委員によって、日本における各種手技療術の成果を検証し、統一化し制定された。各種の主張や表現は異なっていても、「身体外部から触知し得る体の或る場所に、体内の異常に対して触知し得る如き反応が現れるという事実の指摘であって、その硬結、弛緩、圧痛、過敏、転位等の現症・・体に現われるところの触知できる異常を解除することを以て操法の目標としている」(野口「整体操法読本 巻一総論」)という点からは統一化可能として制定された。

野口氏をはじめとした、これら先達の業績と情熱を感じつつ、今回第8回目の講義・実習の記録を始めます。

 

胸部調律点

第一 大胸筋上部

第二 肋骨三、四枚目

第三 肋骨五、六枚目

第四 鋸筋の境目

第五 脇の下の後ろ側

第六 脇の下の前側

第七 下勁 肩と頸つなぐ処

 

腹部第一が実で硬い時に、そこをいくら押さえても変化しないが、その時に胸部を操法すると、簡単に変化させることができる。また、感情を抑えたために体を壊しているという時に、感情そのものに働きかけるのは難しいが、胸部を操法すると、いつの間にか落ち着いて来る。

胸部第五は、体の疲労感を、第六は神経的な疲労感を調節するときに使う。調節によって疲労そのものがなくなるわけではないが、一応疲労の感じはなくなる。それによって新しい体力を呼び起こし、疲労そのものも抜けてしまうこともある。

胸部第一は睡眠の状態を表している。睡眠不足の場合、そこと同時にみぞおちや頭部第五が硬くなっている。左右の胸部第一の厚さの差が大きい時、夢をみる。厚さの薄い方が硬くなっている。左側が薄い場合は怖い夢、悪夢をみる。右の場合は単に日常あったことなどの夢をみる。

胸部第一が硬く、同時に腹部第一が硬い場合は、頭部第五の系統の異常である。これは迷走神経の緊張過度による現象で、眠りの変化、疲労感の増大、感情の抑制、筋肉の緊張が弛まず緊張しっぱなしで疲労感を感じることなどの現象をいう。これらはすべて、頭部第五に端を発し、胸が薄くなり、最後に腹部第一の強張りへの順に変化していく。

呼吸器や心臓を悪くする人も、同様の現象を生じている。感情を過度に抑圧している人の中で、腹部第三が実になっていない人に胆石症の人が多い。

 

胸部調律点操法の練習

仰臥で行う。第一は軽く早く押さえる。第二第三は中指で少し持ち上げるように押す。第四は指三本で軽く押さえ、こちらで補助する。次に、腕を軽く曲げて、脇の下をつまむ。ここが厚くなっているのは、内臓の疲労や過食を表している。このとき、手の第二にも異常が出ている。

腹部第一が実のときは、お腹には触れないで、胸部第一から第六までを操法する。第一が特に有効である。そういう人は、同時に頸から肩にかけて強張っているので、下頸を押さえるとそれらのこわばりが弛み、呼吸が楽になる。

胸鎖乳突筋から肩甲骨に沿って凝るというのは、頭部第五系統の疲労で、呼吸器の機能が落ちて通常は風邪をひく。風邪が抜けると、頭部第五が調整される。うまく調整されないのは、風邪の経過がうまくいっていないことを示している。

お腹の場合は十分にぎゅーっと押さえるが、胸部はできるだけ皮膚を擦るように触れる。その逆に、胸部操法を強い力で押すと、効果が得られない。

相手が息を吸い込んでから、それを吐かせないように押さえる。そのためには最初にハッとさせる。こちらの足で相手の体をトンとさわるとか、最初の刺戟を早くするといい。脇の下は、息を吐かせてから触れる。

なお、余談だが胸や頭の操法をやり過ぎると、力が入って首が硬くなってしまう。肩が凝ったということで按摩にいって揉んでもらったらあとから余計に凝ってしまった、というのは凝っているところを押すからそうなる。凝っていない他所のところにふっと気を移せばなくなってしまう。そんなことも知らない専門家も結構いる。

指で押せば押すほどそこに力が集まる。操法では、気を移すということが重要な働きをしている。気をそこに置いておかない。分散させる。気を誘い、気を抜いてしまう。そうするとバタバタとなくなってしまうものも多い。肩が凝っているから散歩に連れていく、無駄遣いをさせる、八つ当たりさせる、そういうことでも変わってくる。そういうことも含めて学んでください。