野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(32)三側の操法

I先生「家に帰って練習できましたか。今日は三側の操法の練習を中心にやってみます。」

一側は頭の調整で変化する。なかでも頭部第二調律点と第三調律点を結んだ線上が、特に一側の調整と関連している。第四は腰椎部分と関連している。第五は胸椎部分の硬直と関連している。大脳緊張の影響は、ほとんどの場合、一側の変化として現れてくる。心痛とか悲しみは、頭部第二に緊張過剰のための弛緩として直接反映する。

一側は内から外へ、二側はまっすぐ下へ、三側は外から内へという方向、押さえ方の原則を忘れて、押さえてしまってはいけない。普段からの練習が足りないために、ついみんな同じ方向で押さえてしまう。

ただし、椎骨が下がっている場合は、三側であっても上に挙げる方向に押す。三側に硬直がある場合は、外から内に三度以上ゴリゴリと押さえる。そのあとは愉気が主体となる。三側はギュウギュウ押さえるほど硬くなる。

 

三側の変動に対する操法は、今の段階では難しいものだが、先にいってから更に細かいことを身につけなくてはならないので、一応やっておいたほうがわかりやすくなると思うので触れておきます。

 

例えば、虫様突起炎の場合、腰椎二番の三側を押さえると良くなる。腰椎二番の二側をおさえると痛みが止まる。三側だと治るのです。三側の操法というのは、体の病的な変動、臓器の変動の場合には、すぐに役に立つ。そういう点で、一側や二側と、三側とでは使い方が全然違います。ただ、三側の操法は、病的な変動の原因の如何にかかわらず臓器の変動に直接影響を与えてしまうので、一時的に良くなっても、もし原因があるとすぐまた元に戻ってしまうのです。そして、そうやって元に戻ったものは、次にやる時にさらに難しくなってしまう。心理的な原因で食欲がないのも、食べ過ぎで食欲がないのも、同じように食欲が出てきてしまう。だから、そういうことがないように、一側や二側を処理して、変調の原因を明らかにしてそれを処理し、そのうえで三側を処理するようにしなければならない。もちろん、三側を直接やってそのまま治りきるということはあるが、一応我々は、一側、二側、三側を睨み合わせながら、原因を確かめて操法に臨みたい。

不安といっても、腰椎二番の下がっているものと、胸椎四番の下がっているものとは違う。二番の下がりの不安は自分に自信がないことからくる不安、四番下がりの不安は、外界からくる不安。

肝臓を例にとると、胸椎四番は肝臓自体に力のない状態、胸椎二番は肝臓の能力を越えた負担がかかっている状態。

 

今日の問題は、心の問題が体に現われ、また内臓の変動が背骨にも現れるというということ、しかも体に現われる方向にも一定の法則があり、その法則に沿って同じようなことが繰り返されているということである。

胸椎五、六の捻れの状態は、食欲のない状態。二番、四番は肝臓系統、呼吸器の三番から七番というのは一側です。呼吸器も内臓なのでその血管収縮運動は一側ですが、その生理的問題はやはり三側の硬結として出る。三側の変動はお腹の操法によって大部分はすぐ消えてしまうが、使い方によっては逆に悪くしてしまうこともある。一側や二側のように曲がっているものを真っ直ぐにすればいいというわけにはいかない。真っ直ぐしたために悪くしてしまうことがある。

 

三側操法の練習

今日は三側の変動を中心に硬直をみつけ、それがあればそれに対するをお腹の硬直状態を調べ、背骨を触ってお腹が回復し、お腹を触って背骨が戻るというのを練習で確認してください。ただ三側は臓器に異常のない人は、本格的には狂っていないのです。そこで異常のない場合は、実験として胸椎六番の三側を、異常が無くてもゴリゴリやってみると、みぞおちの左側が硬くなってきます。さらにやると痛くなってくる。痛くなるのが嫌な人は、胸椎十一番のあたりをやれば、あとで小便や大便がどかどかと出るか、逆に止まってしまうという変化が必ずおきるから、相手には悪いけれども、少しやり過ぎると、知識が技術として確認できる。きょうは壊すべくして壊して、それをなおす、その練習をしてください。もちろん、相手に断ってやること。

実際の操法の場合は、何か病気にでもなれば、否応なく三側が硬くなっているから、探すのも容易です。見つかったら、相手にまたがって、三側のこわばりを三回ほどゴリゴリやって、そこが少しでも変化しだしたら、相手の脇に坐って愉気をする。急性病状態なら押さえているうちに良くなってくる。押さえる場所さえきちんと決まれば、その病気自体はまず楽になって来て、慢性病のようなものでも、ジーっと押さえていると、どこかが変わってくる。相手にもその効果が短時間に判る。だから、相手の信用を得るためには、一側や二側でいつかは良くなるということをやるよりはいい。三側はそういう面で、体のバランスがとれようがとれまいが、押さえた処は押さえたように良くなるのです。危険な面もあるが、押さえているうちに変わるという特色がある。

押さえ方は、一定して押さえ、ピタッと触って指は動かさない。指に力を入れてはいけない。ただ、多少の荷重をかけないと硬結が浮き上がってこない。硬結に触れていないと、どれくらい良くなったか判らない。愉気すれば良くなると判っていても、どれくらい良くなったかが判らない。指でピタッと押さえる。たとえ地震だ、といって慌てて相手が起きようとしても起き上がれない、そういうように押さえる。相手が多少じたばたしても崩れない、というのが押さえ方のコツです。こういう型が決まると、愉気の感応がずっと早くなる。この型が決まってはじめて、三側操法が使えるようになる。

相手の三側に荷重をかけるときは、自分の体重を相手に乗せていきながら、しかし力では押さないで愉気をする。そういう要領を、何人かの人をやって会得してください。呼吸を見て押さえる。

 

I先生。「これまでやってきたことは、頭で憶えることは何もありません。大切なことは、自分の体がどれくらい変化したか、体でどれくらい覚えたかということです。みなさんの練習を見ていると、講義ばかりが進んでしまって、実際の技術が遅れてしまっている。技術というのは練習を積み重ねなければ決して上達しない。ここでの講義は、そうした道筋を示すものに過ぎません。この会のあと、家に帰って、次の会までの期間は、ズーっと練習をしているものとして、カリキュラムを組んでいますが、予想以上に技術が遅れてしまっています。一年以上やってきて、これだけしか出来ないのかと思えるほど、下手である。

次回もう少し実際の問題をやりながら、皆さんが技術をどのくらい修得しているかをハッキリさせ、それによって今後のことを決めたいと思います。今日はこれで終わります。」