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未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(36)下肢を用いた椎骨の矯正

I先生「前回は脊椎の矯正方法の一つとして足の操法をやりました。今日は、足を使った背骨の矯正についてやってみます。」

 

足のいろいろな角度で、足を利用して椎骨を矯正していく。そのためには、足が正常な状態でないとうまくいかない。たとえば、股関節が狂っているのを無理に曲げると、股関節の狂っているのに対応して、別のところに力が入る。だからそういう場合にはそのままでは足は使えない。膝が悪いと、外に捻っただけでも、もう他に余分に力が加わっている。だから正常な足だと思っても、一回は足の操法をして、足が正常な状態に近いように関節が動くように誘導しておいて、それから足を使う。足としては坐骨部を押さえればその系統が全部弛んでくる。そうなれば足は使える。

 

足の使い方

腰椎の一番は坐骨部を伸ばす。仰向けで、片方の足を真っ直ぐに伸ばしたまま上に持ち上げていく。一度目よりも二度目の方がスーッと伸びるようなら一番に故障はない。一番に故障があると、二度目の方がこわばる。三度目はもっとこわばる。だんだん上げにくくなる。この動作は、一番の調整方法であると同時に、その矯正方法にもなる。

腰椎二番は、うつ伏せで、二番の骨の曲がっている逆の足を使う。足を持ち上げると同時に「く」の字に曲げ、パタンと落とす。うまくいったら、次に上腿外部の三番の処を押さえる。

腰椎三番は腰を捻るだけでいい。足を使ってやる場合は、仰向けで足を曲げて外側に開くように捻る。そして逆の足を真っ直ぐに同じ角度にもっていって引っ張る。ただし、腰椎ヘルニアのように明瞭に狂っている時は、悪い方を捻って押すと痛くてやれない。そういう時は、捻らず拡げるだけにして、逆を捻って引っ張る。ともに、三番の矯正法である。

腰椎四番は、腸骨の開いている方を「く」の字に曲げて開く。膝を向こう側に押しながら足首を払う。腰椎四番の位置がきちんとしてくると、生殖器関係の力を呼び起こす。

腰椎五番は、仰向けで両方立ち膝をしてもらって、お尻を持ち上げてもらい、持ち上がったところを払う。この払うのがうまくいかないか、払うほど五番が狂っていないときは、足先を内側に向けるようにして両足を捻って持つ。力が無くて捻り切れないときは、膝を立てて膝の処を内側に寄せるようにして引っ張る。つぎに足を伸ばして足先を内側に捻って引っ張る。五番が陥没しているときは、うつ伏せになってもらい、足を膝から曲げて持ち上げ、膝の下に自分の足を入れて、ストンとはずす。それから足首を持って、畳の方に向けて下げてくる。その時、少し内側に捻りながら、揃った処にもってくる。ギュッと持って、ポッと放す。

こういうように、足の重さを利用して、あるいは足を不自然な形にしておいて、それが自然に戻っていこうとする反動作用を利用して、腰椎の位置を正します。これらは特別な技術は必要なく、そういう形をとれば自然になおっていくから、今日練習で腰椎を調べ合って、異常を見つけた場合に、腰椎何番の骨に異常がある、ということを相手に確認しておいてください。

やる前には、足の操法をしておいて、それから矯正に移るとうまくいきます。上手になれば足の操法は略してもいいが、その時でも相手の意識を足に集注させておくために足の甲を押さえたり、足の指を押さえるということは必要です。

ただ、この矯正法は、下手にやると曲げてしまう。間違って曲げてしまったものは、非常に元に戻りにくいということを知っておいてください。

 

練習

矯体操法をする前に、足の操法を一通り全部やります。全部やって、どこに異常があるかを見なくてはいけない。操法は同時に観察である。相手の足を素直に利用できるかどうか、それを見ながら操法する。真っ直ぐに伸ばしても、足の内股に異常のある人は、内股ばかり押された感じがある。そういう時は一番の矯体操法をしても治らない。一番に行くべき力が五番にいく。もっとも小便はよく出るようになるが、足が正常でないとこの矯正法は難しい。慣れれば五番が狂っていれば狂っているように抵抗を見ながら調整する方法を講ずるが、その調整方法は難しいので、正常な足の状態にしてから操法を進めます。

腰椎の五つの矯正方法は、足を丁寧に調べながらやる。

矯体操法の特徴は、やって十五分から三十分経ってからの方が変化してくるということにある。後になるほど変化がはっきりしてくる。

カイロプラクティックという技術では、背骨を一つ一つガクンと押して治す、そうするとすぐに元に回復するので非常に華やかなんです。ところがこの技術で直したものは、十五分ぐらい経つと、また曲がってきてしまうのです。しょっちゅう同じ処が狂う。瞬間しかもたないのです。

腰椎を治すには骨盤の位置変化というものを介して治す。そうすると、その人の行動、生活がみんな変わってくる。逆に腰椎を直接治すと、又すぐに狂ってくる。だから、背骨を直接押して治すという方法は他愛のないやり方と言える。

カイロプラクティックの治し方が背骨を治すのに不適当だと言いたいのではないのですが、骨盤の調整を媒介にして治すという方法のほうが、ずっと治した効果が持続するということです。

矯体操法に欠点があるとすれば、操法してすぐにその効果が現れないということです。骨盤の調整を介して間接的に行うために華やかさはない。しかし、時間をかけていつの間にか徐々に良くなっていき、長く保つ。だから修正の方法としては長所だと言えるのです。スパッと治された感じがするというのは本当ではないのです。

技術を示すという場合には、はなはだ不利である。しかも、治っていく過程でいろいろな変化が生じてくるので、相手は不安がり、慌てて痛み止めを飲んだりということにならないとも限らない。やはりその場で一応スパッと治る方法も必要である。

そこで普通の場合は之だけでは不安定なので、これを補強する操法を行なう。それは腰の治した処に手を当てて愉気をします。三側を押さえる。愉気をしていると押さえている処の上か下に緊張が移る。上なら上ばかり、初めの処より下に行きだしたら下ばかりです。下の場合には足の操法を全部やって弛めると揃ってくる。最初は左右同じように押さえるが、片方弛んできたら、硬い側だけ押さえる。硬い処がだんだん内側になってくる。とにかく硬直している処を追っかけていく。当人はそこを押さえていると、そこが当たり前になって快感がなくなってくる。すると次に押さえてもらいたい処が出てくる。そこに行くとまた快感がある。快感があるが間もなくすると無くなってくる。また次に移る、というように変わっていく。治った腰椎から出発して上か下にくっついていく。次の緊張の起こるところ、次の硬直の起こる処、慣れなくて判らないうちは相手に聞いてみる。相手にも注意してもらって押さえていく。最後に骨と骨のくっつくような処、あるいは右、左、捻れているような処に来たら、愉気を止める。そうすると今感じている異常がすぐなくなる。

だから根本的な操法は腰で行って、それから押さえて出発していく。敏感になると止まる処が判るようになる。また止まった処を愉気すると相手が異常だと感じているものはなくなる。これは長い時間かかり、いつ終わるか判らない。だんだん慣れてくると早く変化するようになる。一定時間に変わるようになる。これが一番技術の欠点を補う方法です。

やるときは伏せでも坐ってでもいいが、下に行くようなら伏せにするしかしようがない。伏せになった時、頸が片側に向けたら肩がキュンと緊張したという場合には、頸に異常がある。その場合には腰から押さえていって、その頸まで順々に辿っていくと、頸の異常のある処に辿り着く。なかには、その異常のある頸から出発していくと腰に至ることもある。その方が自覚的な異常が早く抜ける。

このように、相手の異常感をどう引っ張っていくか、本当はそこが異常だ異常だと相手の人は自分の感じている処に指を当ててやると喜ぶけれども、そうではなくて愉気をしながら自分の感じを 移していくと、相手の異常感がくっついてくる。相手の異常感をリードしていくのです。相手にリードされているということが判らなくて、自分の感じている通りに押さえてもらっているというように押さえられれば上手なわけです。

これは難しいことであるが、これをマスターしてしまうと、今ある自覚的な異常感を速く抜くのに便利であるから、よく練習しておいた方がいい。最初はお互いに、そこだそこだと話ながら確かめていけば能率が上がる。

愉気の仕方はちょっと圧をかけるぐらいで愉気をする。圧を加えすぎてもいけない。触ってちょっと目方をかけるぐらいがいい。受ける方は眼をつむってポカンとして相手の指の行くところに注意を集めている。もし活元運動が出ても、そのまま押さえ続けておればいい。少し動くぐらいの方が早く弛む。出来るだけ体の力を抜いてポカンとしている。

愉気をしているとだんだん相手が弛んでくるようであれば成功。緊張している処が合えば弛んでくる。あまり頻繁に動かすと判らない。ジーっと待っている。異常がある処に行くほどだんだん背骨のほうにくっついていく。受ける方が少し眠くなるぐらいで、ボヤーっとしてくれば成功。

体質反応の鈍い人は、なかなか変化が起こらない。押さえていて一時間やっても変わらない人もいる。そういう人に出会ったら、まず頸の操法をする。頭部第五周辺の操法を丁寧に行う。第五の周囲をソーっと押さえて愉気をする。上に上に持ち上げるようにする。それから後頭骨を上に押し上げる。そうすると変化が早い。

逆に体質反応が過敏で、押さえていくとどんどん変わって上に行ったり下に行ったりと、行ったり来たりして、また元に戻るという過敏反応状態になる場合は、臍の周囲を押さえてから始める。臍の周りをかき上げるように押さえる。

鈍いのは頭、過敏なのはお腹という二つの補助操法が要る。活元方法もこういう方法で出すのが本式である。

背骨が押さえているうちにだんだん弛んでくる。その弛んでくるうちにいつのまにか活元運動に移っていくという方がズーっと無理がない。

だから活元運動が出ないという人に、この操法をしてから誘導すると、どんな鈍い人でも出るようになる。誘導の方法としては、これが一番正式で、だから活元運動が起こってもかまわない。押さえていて、そのうち押さえている部分に動きが起こるように活元運動が出てきたら、そこで少し弛める。そして別の処に移ってその中心点を押さえてまた愉気をする。初等の技術を利用して、効果だけあって害がないという方法としては、これが一番いい方法である。

この操法を通じて、どこで操法を終えると一番効果が上がるかを見つけることが出来るように練習を続けると、より完成度の高いものにすることが出来る。

なお、この操法を行なうと反応が早く起きる。反応が起き出したら、足の内股操法を行なうこと。どちらか硬い方の足の内股操法を行なう。そうすると、起こってきた反応が、ただ背骨の愉気のその影響だけではなく、体全体の変化を起こすような反応に変わっていく。