野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶⅡ(60)上肢操法、下肢操法(その3)

I先生。「今日は、下肢の操法について掘り下げてみましょう。」

 

坐骨操法にしても、アキレス腱部を押さえるにしても、それは足の裏が最後の負担のかかるところだからである。

坐骨系統が硬くなってくると、足の裏が熱くなり火照ってくる。その多くは腎臓関係の異常である。足の裏を踏んでいると坐骨系統の硬直が弛んでくる。泌尿器系統の調整方法になる。

腰椎部がむやみに硬い人は、腎臓が腫れていることがある。そこを押さえると、熱くなっている。実際に皮膚温度計で測ると、高くなっている。手でも、麻痺すると指の温度が確実に下がってくるが、化膿活点を押さえていると、その温度がどんどん上がってくる。

足が浮腫んでいるのは、内股操法と坐骨操法をやったあとで、アキレス腱の上をじっと押さえていると、取れてなくなってくる。死ぬ兆候だと言われているむくみなどが、こういう操法でなくなってくる。

そういう面で言うと、これらの操法は、単にむくみを取るとか疲労感の処理というようなものだけでなく、考えられているよりも、生命全体にかかわるもっと重大な影響をもたらしているものかも知れない。

内股の特定の部分は、生殖器が弱い人の場合弛緩しているが、回復するとそこが硬くなってくる。弛んでいる場合はそこを押さえて愉気していると変化してくる。回春の処ということになっているが、そこは相当に歳をとってしまっていて弛緩してしまった人には非常に的確に変化を起こすが、中途半端な年代に対しては効果はない。極老人用の秘訣として憶えておく。

一か所が急所。ここは、老人には孔があるが、若い人にはないので判らない。多少でも力のある人には孔がないが、本当に歳をとるとズブッと空いている。ここは精力だけでなく、気力がなくなった時にも出てくる。

このように、足というのは単に疲労感の処理だけとは言えないのである。

昔の言葉に「頭寒足熱」というのがあるが、足熱というのは腎臓病なのです。足熱ではなくむしろ「脚熱」と言うべきですが、ふくらはぎ部分が暖かいのが健康なのです。

アキレス腱部が冷えて冷たいというのは、頭の過敏な兆候である。そこが冷たければ、触らなくてもその人の鼻や頬が冷たいと推測できる。そういう人は神経衰弱気味で頭の過敏状態。額が熱く頬は冷たい。頸は熱いが、鼻は冷たい。

アキレス腱を切断した人が、治ったあとで急に視力が落ちてきたということがある。大腿骨と視神経、アキレス腱と視力は関係があり、足の骨折の際に眼を押さえると回復が早くなることがある。

そんな風に、足というのは正体不明のところがあるが、とにかく生理機能の実体を支配しているように思える面が多い。足の伸び縮みが悪くなると、体が衰えるということは確かです。

われわれは、相手の足のどこに力が入り過ぎているかを観て、その系統を処理していく。

足の小指側に力の入る人は、足の三里の処を押さえると変化してくる。だんだん内側に力が入るようになってくるのです。そこで骨盤をしめる際には、足の三里を使う。ただし、妊娠中にこれをやると流産してしまうのでやってはいけない。

足の三里と腸骨とは深い関係がある。開閉型はいつもそこが硬く硬直している。足の他のところは丈夫なのに、三里の部分の筋肉はいつも硬直している。そこを通る筋肉だけが硬くなる。

下痢が続いている人には膝の内側や、骨盤の片方が開いている側の三里を押さえると回復してくる。

 

足の硬直している部分や閊えがある部分を操法すると、意外な処に意外な変化を起こす。耳や喉や鼻の異常は、足首の問題、内踝のすぐ下が硬くなっている。また、同時に上肢第五も硬くなっている。

足首が狂っていて外踝が下がっていることがあるが、これは足首の異常ということのほかに、頭の故障、たとえば脳溢血とか脳性の小児麻痺にもみられる。

外踝を、上げるように上げるように操法する。最初は痛くないが、位置が上がってきた時に愉気をしていると中が痛くなってくる。そうなってから引っ張って、足首をはめる操法をすると治る。踝の下がっているうちは治りが悪い。

頭の異常だから頭に愉気したほうが良いように思えるが、外踝を上げると早く体に効く。周囲を調べると硬結があるから、それを愉気して、弛んできた時に上げるようにすると簡単に上がる。

 

足の操法は、どこがどうだからというよりは、体全体に働きかけるという面が非常に強い。足は、背中の三側と同様に、変化が早い。ただ、三側が何番を押さえれば、どこにどう影響するという場所が判るけれど、足は漠然としている。漠然とした効果がある、と言っていい。ここに異常があるから足のここを押さえる、といやり方は足の操法としては本式ではなく、足の全体を探って、つかえている処を押さえて愉気をしていくというやり方が必要なのです。

 

下肢操法の中に、足湯とか脚湯というのがあるが、これは同じ温度のお湯に同じ時間浸けていると、片方の色が変わり、他方は変わらないという、左右差を利用するものです。足や脚も、他の部分と同様に感受性に左右差があり、二分から五分、時には八分ぐらい左右差が続くことがある。

風邪を引いたときは、片側の感受性が鈍るから、お湯に足を入れると、風邪を引いていない方の足が赤くなる。引いている鈍った方の足は赤くならない。その赤くならない方の足を二分間ほど余分にお湯につけていると、両足が揃って、風邪が治るのです。

今の医学では、人間の最も特徴的な「随意筋の変化」というものを丁寧に見ていない為に、そういうことがまだわかっていない。

我々が、発熱したとき後頭部を温めると早く熱が出て、経過が早いというと、熱が出ている時に温めるとは何事か、と言われる。しかし実際にやってみると、そうなるので、次からは反対しなくなる場合が多い。

まだ一般には、体の左右の感受性が異なる事や、その調整によって回復が早くなるということが理解されていない。

まして、発熱中は動いていてもいいが、熱が平温以下になった時に寝るようにする、というと不思議がられてしまう。

左右の温度が違うというのは、骨盤の左右差に関係がある。だから、骨盤の位置を正確に調べるために体温の左右差を調べるということにも使える。

体に左右差があるのは当然で、顔だってよく見ると左右異なっている。同じ人間なんだから左右も同じなんだと思い込んでいるだけである。

 

足の操法をする場合も、そういう左右差を考えて行なうことが大切になる。例えば、喉が腫れて痛いという場合、顔を見て、赤くなっているのと同じ側の足首を操法すると治ってくる。頸から上の問題だから、大脳神経の運動系と考えれば逆側のはずだし、自律神経系の場合だったら同側のはずだが、この場合は同側である。

ところが、耳の異常は、同じ頸から上の問題なのに、逆側を使った方が治る。めまい等も、顔が青くなった側と逆をやると治る。外踝の下がっている場合は、逆側をやる。下がっていない場合は同側をやる。実際にやってみるとそういう傾向がある。

 

足首の周辺は生殖器に関係がある。特に粘膜の脈管運動と関係があり、生理外の出血とか、生理がなかなか止まらないとか、生理痛があるとかいう場合には、ほとんどの場合足首に故障がある。子宮からの出血の異常は足首で治す。

また、足首は胃袋とも関係がある。右の足首の太い人は、食べてもなおお腹が空くし、左足首が太いのは一向に食欲が起こらないという傾向がある。

右足首が太い場合、それを細くする操法をすると、ガスが動き出す。これは脛骨と腓骨が離れるとガスがたまるのだが、足首を操法するとそれをが縮まってガスが動く。

決断が遅いという人の足首も太い。

足首の調整を自分で行うには、何かにつかまって、足首の力を抜いて振ればいい。

 

練習(足首の治し方)

まず着手の処として、外踝をみて、下がっていたら上げる操法をする。

外踝の周辺を上に上に真中に寄せるように押さえていけばいい。足首の関節は非常に頑丈にできていて動かしにくいが、ある角度を決めてショックを与えると、細かに一つずつ治さなくても治ってしまうという傾向がある。

相手は伏臥。

足首を持ち、両手の親指を踵に当てて、他の指で挟むようにして持つ。そして狂っている角度によって踵がゴリゴリいう位置を見つける。見つかったらその位置で、膝が上がるように外に押していって、急に縮める。裏筋肉は引っ張ったまま。

そうすると、関節が動いて治る。膝を一旦落としておいて、急に上げるように持ってくる。これは極く小さな足首の狂いや、踝の周辺の狂い、外踝周辺の狂いを治す方法です。

いろいろの故障から足首をこわして脱臼しているような時には、親指の股で足首を押さえて、膝から曲げて上に持ち上げておいて、膝で下に落とすようにする。これは足首を完全に脱臼している場合に使います。

 

治そうとする処をまず決める。一番古い処からいけばいい。治そうとする処を骨に直角にする。狂いに対して真っ直ぐな角度をとる。骨折の場合も、足首の狂いを治しておくと、複雑骨折でも真っ直ぐにつながる。下の方を引っ張って、動かしてみると、狂っている骨は伸びが悪い。動きがごつごつした感じになる。もう少しで治るような時には、かすかに音がする。音がするようになれば治る。悪い場合は固まって動かない。愉気していると動き出す。踵を上げてもこたえない場合は、腓骨の外側を押さえる。あまりに硬い人はこれをやっておくと足首の治りが早くなる。

 

何処の関節でも、力の強さで治そうとしても駄目である。相当の力の量でも治らない。ゆっくりじーっとやっていたら、何十キロの力を入れても関節は動かない。速度が必要なのです。角度を決めて、ある速度を加える。速度さえ速ければ力は要らない。動きの幅は狭い程、速さを出せる。

動きの幅を決めるには焦点をきちんとつかまえることが大事で、焦点をつかまえた場合には裏筋肉を引っ張る力が弛まないで速度が出るようになれば本式である。

裏筋肉を引っ張ってその時の緊張を筋肉に記憶させ、普段の動作をしながらいつでも無意識にそういう筋肉の動きをするように誘導していく。呼吸の間隙にガクッとやると、そういう刺戟をやめても今度はそういう治す型を無意識にとるようになる。治した後から歩き方が変わってくる。そうして筋肉に記憶させることによって、治ったのを持続する時間を長くする。それで治っていくのです。だから関節は力で治すと思わないで、速度、幅を狭める、そのためには焦点を決める。裏筋肉を押しておいてこれを無意識に記憶させる。この力は強いほどいい。それからちょっと動かす。

やり方の問題で、狂っているからどれくらいの方向に引っ張ればいいということは説明出来ないが、一番抵抗のある角度を選び出す、足首をぐるっと回転しながら引っ張っていって、一番抵抗のある角度をつかまえて、瞬間に速くそこを押す。押してすぐ捻って返す。そういう要領でやれば治ります。骨を動かそうとか、こう曲がっているからこうやろう、などと考えると難しくなる。こう曲がっているのが判ったら、大雑把にギュッともう一つそれを曲げるように引っ張って捻ると治る。

 

以上で、上肢と下肢の操法を終わります。かなり難しかったと思いますが、少しずつ体得していって下さい。