野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(5)愉気による背骨の観察

第五回目です。読者の皆さんと同じ時空を共有できないのは残念ですが、このブログを通じて野口晴哉氏の息吹の一端を味わい愉しんでいただければと祈念します。

愉気による観察

手指で行う操法のすべては愉気が基本となっている。指の下にあるのは愉気というもので、指に気が集まっていないと「感応」は生じない。それでは棒で押さえているのと同じで、物理的なショックしか感じず、硬結の消失といった体の変化が生じない。

背骨を観察する場合も、背骨の格好ではなくて、その弾力状況を調べる。それも物理的な弾力異常ではなく、気で感じる弾力異常である。そこで感じる「異常だ」というのをつかまえる。

この「異常だ」という感じは背骨を揺すぶっていて判るものではない。愉気をして気が出ていると、そこに可動性があっても過敏であっても、押さえただけで「異常だ」というのが判る。これが判らないと何もできない。

 

合掌行気法の実習

 

頸部への愉気の実習

最初に相手の後頭部に愉気をする。感応が起こると頭が重くなって前にさがってくる。同時に頸動脈が強く打ち、呼吸が深くなってくる。そうしたら、指をそーっとずらして、頸の一側の冷たく硬い筋(悪い処は爪で軽く擦ると赤い跡がつく)に愉気をする。じーっと愉気していると、硬いところの中に小さな塊りを感じる。これを見つけたら、それを頭の方に少し持ち上げるようにして愉気をする。そして感応すると、頸の硬い筋が全部弛んで、急に力が抜けて、ポカンとしてくる。

愉気は体の感覚の正常な人と、急性病状態の過敏な人にはよく感応する。

 

愉気による椎骨の観察の実習

まず硬い骨、飛び出している骨をみつける。次に二つの棘突起の間をみて、その骨が上がっているか、下がっているかを調べる。

調べ方は右手で硬いか飛び出しているかを、左手で棘突起の間隔を同時におこなう。

上がっている骨は下から、下がっていれば 上から、飛び出しているのは真上から押すと痛みを感じる。痛みを感じ異常だと感じたら、その骨の一側に愉気する。

下がっている場合、それを上げるような気持ちで愉気をする。すると骨がゴソゴソ動いて自ずから戻る。

今回の練習では、意識で異常を見つけようとしないで、無心で感じとることに集注する。感じなければ一旦やめて、しばらく経ってからもう一度やる。慣れてくると、意識では判らなくても、悪い処に行くと手がひとりでに止まってくる。指自身がそういう感覚を持てるようになる。繰り返すうちにできるようになる。

今回の練習は、まず目をつむってポカンとしてやる。数多くやってはいけない。一日に一回。せいぜい二回やって、三日続ける。そして一日休む。間を開けることが上達のコツである。一日に何度もやっては進歩しない。間にポカンとする時があると進歩する。感覚を育てるためにはそういう順序が必要。

 

背骨の体癖的転位

開閉型の人が頭を使うと、背骨は下がる。上下の人が体を使うと上がる。不得手な行動をするとそうなる。左右型の人の背骨の重心側にギザギザがあっても異常ではない。捻れ型の腰椎3番が捻れていても正常であるが、それ以外で捻れがあるのは全部異常な骨である。

一般的にいうと、骨の飛び出しは前後の異常、主として呼吸器の異常。上りは頭、神経系統の異常緊張。下がりは開閉 異常、つまり生殖器の異常。左右に転位しているのは消化器の異常。捻れは泌尿器の異常に関係することが多い。

上記の他、十一種といって、過敏で柔らかくて押しても力が止まらないヒステリー素質を持った人や、十二種といって硬くて柱のように動かない習性をもったからだがある。

 

一時的な疲れや臨時の体の使い方によって転位しているものと、その逆にしょっちゅう使われて習性的に転位しているものがあるので、異常の骨をみつけたら、互いに響き合う異常の骨をいくつか見つけ出して、その中心となる異常の骨の一側に愉気してみる。そして転位がなくなてってなお残った転位の骨を観察すれば、相手の体癖傾向のおおよその見当がつけられる。

人間はいろんな病気になれるように思いがちだが、本当は自分に合う病気にしかなれないし、からだが壊れるのは偶然にそうなるのではない。かならずその人固有の普段の体の使い方の決算となっている。だから、背骨を調べて、普段のからだの使い方の傾向を知ると、その人の故障範囲というものが非常に限られていることが判ってくる。