野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(21)肩・肩甲骨・鎖骨の操法

I先生、「今回は、肩、肩甲骨、鎖骨をめぐる表情の観察と、その操法についてです。これまでと同様に、実際に調律点に触れてみて、自分の指で体を読むようにしてください。」という言葉で始まりました。また、「整体操法で用いられる<処>は、基本的に誰がやっても一定の効果が得られるように厳選された場所(調律点)として制定されたものです。その場所がどのような表情をしているのか、整体操法の認識としてどのような意味付けをされているのか、解剖学的知見との類似性やその違いは何かなど、いろんな角度から考えて練習をしていってください。」とも。では、記録を始めます。

 

肩の表情と操法

肩は呼吸器や頭の疲労などに関連する。また、肩には、困難を克服しようとする意志とか他者を威圧しようとする気持ちやその強さなどが現れるところでもある。また、権力を失い悄然とすると、肩が下がってくる。このように、肩は、体力を表すと共に、気力をも表している。

頭の中が一杯で、体が弛まないために肩が上がったきりになってなっている場合がある。不眠症なども大抵は肩が上がったままうまく下りない。

こういう場合は、座位で、相手の肩甲骨のへこんだ処を押さえる。たとえば右の肩甲骨の穴に親指を当て、左手で相手の左肩をつかまえて、腰が伸びてくるように角度をとる。肩を操法するときは、肩だけを見ていないで、腰を見る。そして肩を反らせるようにして、逃げようとするのを押さえてしまう。こうすると、肩に上がった気を抜くことができる。

四十肩、五十肩で腕が上がらない場合は、脇の下を押さえる。脇の突き当りをジーっと押さえる。次に、押さえたところの前後二か所の硬くなったところを求めて、押さえる。後ろ側が痛い人は、腕が前に上がらない、前が痛い人は、手が後ろにいかない。真ん中の硬い人は、手が頭にいかない。真ん中をジーっと上に押さえてそのまま待っていると、相手は中腰に浮き上った状態になりるが、こちらは膝で支えて我慢している。それから放す。押さえた右手の反対側の手は、相手の肩を押さえるが、その時少し自分側に引くようにするといい。その後、効果を持続させるために、側腹をつまんでおく。

不眠症や肩こりの場合は、肩甲骨はがしも補助的に加えて行なう。やりかたは、肩甲骨をはがすように手を入れて弛める。肋骨に触れるようにやってはいけない。力を抜いて触るか触らないか程度の力でおこなう。

肩の操法は、一般的には頭の疲れを抜いたり、頭の働きを良くしたり、無意識的に緊張過剰になってしまう傾向を改めたりすることを第一の目的に行う。肩の動きが自由に行える人は、頭を空っぽにすることが出来る。頭をからっぽにできないと、肩の力を抜くことができない。だから不眠症の症状になったりする。眠れないと訴える人の中で、頭部第五が飛び出していなければ、自分ではそう思い込んでいるだけで実際は眠れているのです。ちょうど疲労感に過敏な人が、実際にはたいして疲労していないのに疲れたと訴えているのと同じです。

肩の操法をしてもなかなか変化しないという場合、まずこの頭部第五を押さえて持ち上げるように愉気すると変化することがある。頭部第五が飛び出してくると、肩の操法だけでは変わらない。また、肩の力が抜けないと、深い呼吸が出来ない。

頭部第五の押さえ方は、座位で、まず第五の下に指を当てる。そして上に向けて前に押すように愉気をする。次に右横から、さらに左横から押さえる。するとどちら側が硬いかが確認できる。普通は、硬い側の後頭骨が下がっている。その下がった側を押さえる。さらに、頸椎四番と五番の間、あるいは五番と六番の異常、下がっている方をみつけて、そこに指を当てる。左手は顔の方にやって、両方が合うように角度をとって、右手で愉気をする。そうすると弛んでくる。

 

鎖骨の操法

肩の操法のなかで一番難しいのは鎖骨の操法です。鎖骨は腕の運動と関係しているから、呼吸器の運動とのバランスが悪いと、狂いが起こる。鎖骨が頸にくっついている人は、みな呼吸器が悪い。頭に行っている血は、鎖骨のすぐ内側を押さえると胸に下りてくる。肺炎の時、ここを押さえていると、ここの閊えが弛んできて呼吸が楽になる。喀血している時にここを押さえると、喀血の量が増える。それは肺臓の脈管運動、血液循環と関連があるからで、これがくっついてくると、血液循環が悪くなる。そしていくら眠っても眠い、だるいといった状態が続く。つまりそれは、鎖骨の影響です。

押さえる場所は二か所で、一つは腕に行く、一つは胸に響く。その胸に響くのが急所。異常のある方を押さえればいい。難しいのは肩甲骨がくっついている時。上手にやると、肺炎の呼吸困難が一気に楽になったり、結核の人が翌日から急に元気になったり、子どもが絶えずむせ込むような咳をしていたのがいっぺんにおさまるというような、はっきりした効果が現れる。

 

鎖骨操法の実技

仰臥。相手の腕を持って肩を上げるように腕を引っ張る。指を鎖骨窩に突っ込んで当てたままにして腕を弛める。一、二回やる。眠れないとか、眠りが浅いとか、呼吸力が弱って気がこもり、ホッと弛まない、という場合にこの操法をおこなうといい。ただし、この操法は、いろいろ障害があるから、いざという時に使うことにして、普段はその代用操法を行なう。その方法は、仰臥で、肩の腕の付け根の処を押さえる。腕を曲げて、押さえ、他方の手で角度が合うようにする。相手が息を吸いこんだ時に押さえ、相手に息を止めさせるのがコツ。

 

肩甲骨部の操法の手順 ①から⑧

肩甲骨部の操法は、頭がうまく弛まない時や、眠りが浅い場合、頭の中にモヤモヤと雑念が湧いてスッキリしない時、肩が凝って頭の血が下がらない時、頭に血がのぼって気分も上がって肩も上がってしまっている時などに行うと肩が下がって落ち着いて来る。

あるいは、何かを我慢していたり、言いたいことを言わない時、泣きたいのを我慢している時などに行うと、すぐに弛んでぱーっと泣き出したり、訴えたりする。これを利用して、相手がなかなかスムーズに訴えが出来ない時や、気取っている時に、肩の操法をしてから聞くと、ついしゃべりだしてしまう。本来は、相手の訴えは、時間をかけて聞くべきであるが、そういう利用の仕方もできる。

①まず肩甲骨の凹んだ処に拇指を当て、肩に中指を当てる。片方の手は逆側の肩に当てて速く触る。ちょっと引く。その引くまでが早い。相手の息を止めて、痛みを感じるように押さえる。

②脇の下の突き当りを押さえる、三か所押さえる。息を止めたかったら、肩を後ろにやると止める。

③つぎに肩甲骨をはがす操法。肩甲骨をはがすような角度をとるまでは息を吐かせて行なう。それから吐かせたものをちょっと速度を早めると止める。止めてから押さえる。

④仰臥になる。まず鎖骨窩の二か所を押さえる。鎖骨と頸がくっついてしまっている人には、鎖骨に手を当てて、腕を引っ張って、その中に指を入れて上に持ち上げる、腕を一緒に持ち上げてポッと落とす。

⑤次に、脇の下の二か所をつまむ。腕を曲げること。曲げた腕を引っ張ること、つまり相手の呼吸を止める方法です。それで息を止めているうちに、下の押さえているのを放し、上を押さえる。止めているうちに押さえるのが要点。

⑥坐位。肩甲骨の間に指を入れて、肩甲骨をはがす操法

⑦頭部第五調律点を押さえる。ギュッと押さえて、下がっている方を見つけたら、角度を決めて相手の顔の方向に押す。

⑧つぎに、第五の下がっている側の頸椎四番五番、あるいは五番が硬くなっているから、そこに指を当てる。顔を持って寄せる。相手の顔は捻じらない様に、まっすぐにしたまま寄せてくる。