野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶⅡ(45)眠りの誘導

眠りを深くする

操法によって体を無理に治そうとしても、それで治しきれるものではない。その人の持っている力を発揮して、その人の力で治るようにしなければならない。ではどうしたらよいか。それには相手の眠るということがきちんと行えるようにすることである。

これまで多くの人は、眠りをその量で考えていたために、量を増やすことばかり考えていた。しかし、本当は眠りの質を考えなければならない。何も五時間も六時間も眠る必要はない。

では、どうすれば深く眠らせることが出来るか。

眠りには波がある。波があって、だんだん深くなっていく。途中で目が覚める節がある。節と節の間は二時間ぐらいです。一気に眠ってしまう。明け方に目が覚めて、起きようか起きまいか迷ってまた寝てしまうと、次は二時間経ってから目が覚める。その途中は何もわからない。大体四時間ぐらいの眠りがあれば、十分眠りは足りる。

一度目の節で起きるとサッと目が覚めるが、翌日の午後になって眠くなってくる。だから二つ目の節で起きる。そうすると疲れが抜けて、すっかり新しくなり、頭よく働く。

その時に起きないでまた寝ると、二時間ほどしないと起きられない。体の弛緩を誘導するためには、どうしても二つの節を通らないと弛んでこない。

そこで起きると、肋骨の位置が上がってくる。三つ目の節まで寝てしまうと、こんどはその挙がった肋骨が下がってしまうことが時に起きる。そうなると、一日中眠くてしょうがないという状態になる。午後の三時過ぎになってやっと肋骨が上がってきて目が覚める。

一節眠れば疲れが抜けるのだから、整体操法で肋骨を挙上させれば眠りが深くなり、特に重い病人の場合にも二時間ほど眠らせれば足りるのではないかと実験してみると、一節目で目が覚めない、二節目でも三節目でも目覚めない、四節目で初めて目覚めるというように、一気に眠ってしまう。そのあと体を調べてみると、前とはすっかり違っている。普通の人なら二時間で目が覚めてくるが、重病人は疲労が抜け筋肉が弛むまで一気に寝てしまう。

そこで思い病人を調節する場合には、まず肋骨挙上法をやって眠らせる。つまりよく眠らせるということが一番大事な操法なのであって、その前にいろいろなことをやっても、保たない。眠らせると保つようになる。操法した効果が上げられないという時にも、眠りを深くするということを誘導すると急速に効果が上がるようになる。

眠りというもの自体を操法の技術として使い、眠りの前にはこういう操法、途中で起きた時にはこういう操法、自分から目が覚めた時にはこういう操法、眠ってからもう一回自分で眠り直す時にはこういう操法をするというように、操法の中に眠りというものを取り入れていく。

整体操法が他よりずば抜けて効果が上がったという面があったとしたら、それは眠るということを操法の中に上手に取り入れた。自然に眠らせなかった。どこまでも操法で眠らせた、操法で起こした。そうして相手には自然の眠りのようなつもりで操法の前後のやり方で、その眠りを操法の一つの方法としてやってきた。そういうことが原因と言える。

夢を見ている時は呼吸を胸でする。波打つ。呼吸が腹までいっている時は、夢を見ていない。夢を見させようとする時は、腕の位置を変えて胸の厚さを変える。どっちかの肩を何かでひっかける。胸の厚い薄いにもっと差をつけるように、薄い方を下げる。厚い方を持ち上げるようにすると夢を見る。寝かせる位置を決めると皆夢を見ることが出来る。子どもなどで実験すると、寝ている時にこのようにすると、ただちに眠りが浅くなって起きてしまう。そこでどんな夢を見たかと聞いてみると、大抵は答えられる。だから夢というのは偶然見るのではないということになる。

 

肋骨の挙上は眠りを誘導する方法。これをもう少しはっきりさせておきます。練習では、一つには肩甲骨の間を弛める、これは肋骨を上げやすい状態にする。もう一つは、肋間五、六枚目を押さえて肋骨を上げるようにする。そういう方法でした。やったあとで、呼吸が深くなればうまくいった、まだみぞおちや胸で呼吸していればよくなっていない。

子どもが転んで頭を打撲し、頭に何らかの障害がある場合には、眠ると呼吸が増える。起きている時より、眠ると急に呼吸が増える。それから、ハッハッハッという階段呼吸が起こる。そして脈が遅くなってくる。呼吸が早くなる、階段呼吸になる、脈が遅い、これがその時の呼吸である。

夢を見る時も、それとおなじような階段呼吸が必ずある。

打撲で頭のどういうところに障害を起こすのかというと非常に難しいことであるが、愉気によって追っていくと多くは前頭部にいく。

眠りと関係がある処は、後頭部の頭部第五だが、そこだけでなく、前頭部も押さえて愉気をしていくと眠りが深くなり弛んでくる。その他、第二も有効。

深く眠るためには、眠り際にいろんなことを考えないこと。本を読みながら寝たり、何か考えながら眠る人がありますが、これは疲れを抜くためには不利である。ただし、エネルギーが余っている人にはいい方法です。

 

練習

坐位で、前から耳の後ろに手を入れて前に持ってくる。愉気をする。鎖骨の胸部活点まで続ける。肩甲骨を押さえ、そして肋骨を挙上する。そうしてみぞおちが操法する前より柔らかくなればいい。柔らかくならないのは、肩甲骨はがしが足りていない。肩甲骨はがしは片方だけやることが多いが、ここでは両方をやる。

みぞおちが弛んだら、胸部操法の極めとして、腕の、口内炎を処理する処を押さえる。ここは眠りを深く誘導するときに重要な処で、熟睡している時はここが弛んでいる。深く眠っているかどうかは、ここが弛んでいるかどうかで見分けられる。起きている時にここを押さえると痛いが、眠っている時はここは押さえても痛くない。

一応それを確かめてください。

車の運転の最中に眠くなって困る場合にも、肩甲骨をはがすとか、肘を上げるとかいう操法で目が覚めてきます。これらは、頭にのぼった血を下げる工夫ですが、たとえば上頸を押さえると余計に眠くなってくる。眠りを深くする操法というのは、実は、目を覚ます操法と同じなのです。

なぜ目を覚ます操法が、眠りを深くする操法として使えるかというと、覚める、覚める、覚めると続けると、逆に眠くなるからなのです。覚める方法を繰り返すと、深く眠れるようにする方法になるのです。

こうやって眠りを深くしていくと、同じ時間に眠っても、覚める度合いが違ってくる。

いろいろな操法は、その人の偏り疲労部分の調節ということが一番重要なことなのですが、眠りというものも、偏り疲労の調節に相当貢献しているものなのです。

普通に眠っただけでは汗が出にくいけれども、今日練習した操法を行なった後だと、偏り疲労部分にまず汗が出てくる。異常のある部分だけ汗ばんでくる。つまり、眠りの質がかなり変化したということになります。

重い慢性病が、眠りを利用すると良くなってくる。良くしようとしないのに、何処からともなく力が起こってきて、何時の間にか良い方向に行って、なおってしまう。そうなればこれは治療として理想であると言えます。

とりあえず、練習として深く眠らせることを会得するようにしてください。

今日はこれで終わります。