野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶⅡ(44)中等講座における救急操法

 

I先生「今日は、前にやった救急操法の中等編です。」

 

発熱の見分け方

熱が、朝高くて夕方が低いというのは、体のどこかが化膿している状態。朝が低くて夕方高いのはありきたりの熱だが、過労の時や結核の時もそうなる。

隔日で高い低いがあるのは、臓器の化膿しているものや、神経系統からくるものです。

顔が赤くて高い熱がでるのは消化器系統の熱の特徴。顔が青くて高い熱が出る時は、呼吸器系統の熱の特徴。

呼吸器系統で青く、消化器系統で赤いのは症状はあまり重くないが、その逆に顔が赤い呼吸器系統や、顔が青い消化器系統の熱の場合は、その異常が重いので注意する必要がある。

特に異常が認められないのに高熱が出る場合は、胃カタルや膀胱炎の場合で、いっぱんに寒気を伴う。稀に腎臓の熱のこともある。

熱の見分け方は、実際にはもっと時間をかけて説明すべき問題であるが、救急的な知識としてはこの程度で十分である。

 

発汗

暑い時に汗がよく出るということは、体温の発散の適応的な手段で、体によいことです。発散するほどいい。現実の問題としては、汗をかいたまま冷たいクーラーの処に行かないこと。冷たい風に当たると体に汗が引っ込んでしまう。引っ込むと多くの場合その汗が腸に行く。そして下痢を起こす。その下痢は汗交じりの大便と考えるべきで、病的なものではない。そういう下痢を止めたりすると体をこわしてしまう。

引っ込んでしまった汗を誘導するには脚湯をする。また発汗は胸椎五番がその中心であるから、そこを刺戟すると発汗の鈍ったものが出てくる。坐骨神経が縮むと汗が出にくくなるので坐骨を押すようにして発汗を誘導する。これらを行なって汗を誘導すればその下痢は治る。

ところが内攻した汗が、すぐに腸に廻らない場合、リウマチとか部分的な神経痛になることがある。部分的な神経痛であれば、その根元を温める。リウマチの場合は、背骨全部に愉気をして発汗を誘導すれば治る。

汗が呼吸器に行く場合がある。この場合は、一般的な風邪の症状になる。これも発汗を誘導すればいい。

捻れ型のひとは、汗が心臓に行くことがある。ひどいときは心臓麻痺や狭心症を引き起こす。また、腎臓に行くこともあり、尿が多く出たり、臭い尿が出たりする。それがうまく出ないと、喉を腫らす。こういう場合は、足湯をすればいい。

出た汗が引っ込んで、皮膚から出ないようにしてしまった時には、そういった影響を受ける。従って、汗はよくふき取ることが大切である。特に乳児の場合に、汗をかいているのに風通しのいいところに寝かせておくと、急進性肺炎という熱も咳も出ない病気になって死んでしまうことがあるので、注意すべきである。

 

汗はよく出ない時に病気が停滞している。神経痛やリウマチや風邪で咽喉が腫れた場合、胃が悪い場合、みな汗が出なくなっているような体の状態である。

あるいは、体の一部分だけが冷えてしまっているような場合に異常を起こす。たとえば、クーラーに当たっていたら立ち眩みがしたとか、貧血を起こした、血圧が狂ったということから、下痢、神経痛、生殖器の病気など、いろんな病気の元になっている。

こういう場合は、足の甲の三指と四指の間を押さえると大抵は止まる。

 

火傷

火傷にも種類がある。一番激しいのはガソリンによるやけど。燃えて骨だけになってしまう。周りに肉がある場合は、愉気をしていると肉が押し寄せてきて治ってしまう場合もあるが、指など燃えて骨だけになってしまったようなものはなかなか愉気をしても治らない。

ある一部に激しい火傷をして、ケロイドの状態になっている状態のとき、仙椎の二番を刺戟するとケロイドにならない、あるいはなってもおさまってくる場合もある。

普通の火傷は愉気するまでもなく、水で絞ったタオルで冷やす。何度も取り換えて冷やす。奥の方にだんだん痛みを感じるようになる。その奥の痛みが感じなくなるまで冷やすと、大抵痕を残さずに治る。もし痕になっても、愉気をすれば治る。

火傷で痕が残るのは火ぶくれになるからで、この火ぶくれというのは心理的な現象である。ハッと思うと火ぶくれになる。そこで、火ぶくれにならないようにするために、精神の緊張の持続する方法をとることが、一番大事なことです。

「馬鹿め、何故そんな不注意をした」と言っておくと、大抵火ぶくれにならない。それを素早くやる。火ぶくれになってからではだめである。

優しい言葉をかけて、慌てると火ぶくれになる。火ぶくれにするかしないかは、介抱する人の技術による場合が多く、ただ親切に「それは大変だ」と種々手当をしていると火ぶくれになって、いつまでも痛く、いつまでも化膿して、あとあとまで苦しむことになる。

こういう時の心理的処置というのは非常に敏感で、ちょっとしたことで全然結果が変わってしまう。だから、やけどをして冷やすという場合でも、慌ててやっていると痛みが止まらない。簡単にすぐ治ってしまうような心理処理の方法というものがあるのです。

今まで勉強していた感受性についての知識を応用してみて下さい。中等の技術は、治す前に治ってしまうような心理処理、というものが技術として行えるようでないといけない。それには火傷を大変なことだ、としないことからそれは始められなければならない。出血でもびっくりすると多く出る、火傷でもそれと同じ心理機制があるのです。

 

親切でもいけない。かといって冷たくしても勿論いけない。冷たくすると、こんなに火傷をしているのだと、火傷のひどいことを希望する心を呼び起こしてしまう。大丈夫、というお腹にふっと力が入る処置がいる。

どういう場合でも、救急処置というのは、こういった心理指導というのが大事で、そうしたことが出来なければ救急操法は出来ないと考えていい。お腹が痛いと言う。「どうしたんだ、どうした」と言うだけで痛みが増す。「フン、またこの人痛がっている」と言うとますます痛くなってくる。そこに処置の仕様がある。

悠々と近づくというのも一つの方法です。心を落ち着けなくてはと言って、たばこを喫うのも一つの方法です。もっと時間がかかるように、ちょっとお湯で手を洗いたいと言って、お湯を沸かしてもらうのも一つの方法です。早くやることだけがいいのではない。やってもらう為に待つという時間をかけることは、やっていることの効果を確実にする方法です。妙なことでも、勿体がつくと効果が上がるものである。イワシの頭も信心からと言うが、そういうことと同じように救急処置にはそういう心理対策が必要なのです。それを無視しては救急操法なんて出来ない。

 

物理的に指で処を押さえるなどということは、他愛のないことである。大事なことは、病気になってから、さあ大変だ、と構えているその心をどうするか、どう平静な心に置き換えるかということが大事で、出血でも火傷の火ぶくれでも、ハッと思った心で誘導するので、出血でも「息を吹きかけてごらん、止まっていくよ」と言って誘導すると、その調子につられればすぐに血は止まっていく。吹きなさいと言っても、吹くことに興味が湧かないと効果はない。吹いたら止まるか止まらないかと、疑りを興味を持って吹くところに、その止まる理由がある。火傷の場合、こうやれ、と断定するところに火ぶくれを起こさない理由がある。みなそういう心理的な問題である。

病気になってその慌てている心をどかすことから救急操法を始めないと、相手は慌てて押さえてやっていることを感じて、改めて大変なことなんだ、と思ってしまって、操法の効果が出なくなる。慌ててしまうと、そういう害がある。だから親切過ぎてしまってもいけない。

それから、火傷というのは、その部分がかなり鈍くなってしまっているから、そこに直接愉気をするということでは随分無駄が出てしまうので、その周辺を探して硬結を見つけて、それに愉気をする、そうしたらその後は手を離した状態で愉気をすればいい。

 

打撲

打撲はどれも重要であるが、特に頭の打撲は重要である。子どもで、頭を打った後は、抱いていると体が軽く感じる。頭を打撲した後に風邪を引いたりすると、その経過が遅くなる。お腹をこわした場合でも経過が遅くなる。あるいは喘息をおこすとか、胃痙攣になるとか、そういった病気に対して過敏な傾向を示すようになる。

コブになったり出血したりした場合はまだその害は少ないが、コブにならないような速い速度の打撲、ショックの場合、頭の中を麻痺させる。脳膜炎状態や、脳炎や、いろんな消化器の脳症状の状態などが出てくる。時には死ぬこともある。

前頭部を打つと胃袋が麻痺する。後頭部を打つと腸が余分に働いて下痢したり、嘔吐したり、胃が麻痺して食べ物を受けつけなくなったりする。打撲の変化は、まずお腹に現われる。脳の内部に出血を起こすと半身不随になる。言葉がきけなくなる。

耳の後ろを打つと、喘息を起こす。側頭部を打つと腎臓を悪くして、泌尿器がこわれてくる。頭頂部を打つと括約筋が鈍ってくる。どもるようになったり、寝小便や脱肛、脱腸になる。前頭部の目の上を打つと、目の異常や呼吸器に変化を起こす。目の下の打撲は生殖器に変化を起こす。

そのほかに、打撲というのはいろんなところに影響を及ぼしてくる。足の小指を打撲すると痔になる。薬指だと呼吸器を悪くする。足の裏の打撲も呼吸器をこわす。腎臓にも影響する。足の甲だと胆嚢を萎縮させる。手の甲の打撲は呼吸器をこわす。

整体操法というのは、こうした打撲の影響の知識を逆に利用してやっているという面があって、そのため外側からショックを与えるということが、考えている以上に効果をあげることになるのです。だから、操法の刺戟が強すぎると、打撲と同様に体に悪影響を与えることになります。

 

特殊な場合として、お尻を打ったら痔がそれっきり治ったとか、尾骨を打ったら頭の痙攣する傾向が治ったとかいう、偶然の結果として治るということもあります。

整体操法で制定している調律点は、そこを強く打撲した場合には体を壊してしまう処です。従ってその急所への刺戟の度合いによって、生かすことも殺すこともできるのだから、余程の注意を払うことが必要です。

体の異常というものも、こうした打撲による影響でなっていることは多いのです。慢性の下痢が腰の打撲による影響の場合もある、腰の捻れから蓄膿症になったり、腰の打撲による肋膜炎というのもある。

だから、病気といわれるものが外からの黴菌や毒素によるものだけでなく、運動系のどこかの打撲や、偏り疲労による筋肉の硬直などが臓器の異常に影響を及ぼしているという面も考えてみる必要があるわけです。整体操法では、そういう意味で打撲に強い関心を持ち、運動系の硬直に見られる無理な状態がどのような臓器異常に繋がっているかについても丁寧に観察しているのです。

 

実際の打撲の処理は、打った処は鈍っているので、そこをそのまま愉気していても駄目で、まずそこをトントンと叩いていって、徐々に弱く叩いていって、それから愉気をします。またはギュッと押さえて行って、だんだん弱くしていく。そういう方法がいる。頭に影響がある場合は、頭を調べて行って、体の中で頭と同じような鈍りのある処を処理する。愉気が一番有効です。他のどんな方法より効果がある。愉気をしながら揉むとか叩くというのはいいが、主体は愉気です。

それから活元運動や触手療法を長くやっていると、昔に打った処が痛み出すことがある。そういう場合は、現在の異常は、その打撲が原因となって故障しているのであって、胃潰瘍の人を愉気していたら、背中が打ち身のように痛くなってきたということもある。椎骨を打撲した場合は、そのショックの影響は大きい。腰椎一番を打ったら痔になった、腰椎五番を打撲したら脱肛したなんていうことはざらにある。肋膜でも胃腸病でも背骨の打撲、鈍りが影響してくる。

私たちは、運動系の異常のもたらす病気、運動系のもたらす内臓異常、運動系の偏り疲労状態と内臓との関連というようなことを追求しているわけですが、そういうことが我々の操法の元になっている。

 

悪寒・発熱

悪寒がする時は胸椎八、九番をこすって愉気をする。ただ悪寒の場合、問題は発熱である。発熱自体は自然良能の作用なのでそれ自体は何も手を加える必要はないが、それが何時終わるかを見分けられないと一緒になって心配しなくてはいけなくなる。見分け方は、胸椎八、九、十番の四側を触ってみて、そこが硬直していて硬結があるようなら、まだ熱はあがる。そこが弛んでいればもう終わりである。胸椎の五番が弛んでこなければまだ終わらない。四側の硬直を弛めて熱を下げようなどと考えてはいけない。ここは見分けるために触るだけで、押さえすぎると熱が下がって病気が悪くなることがあるので注意が必要です。

 

虫様突起部の痛み

歩いていて急に虫様突起あたりが痛くなる場合がある。それを盲腸炎になったとよく言うが、本当にそこが悪い場合は、まずみぞおちが痛くなり、次に臍の周囲が痛くなり、最後に虫様突起が痛くなるという順序で起きる。そういうことが無くて、いきなりそのあたりが痛くなったというのはたいしたことでは無い。そういうのも含めて、こういう場合には腰椎二番の右を押さえればいい。

同じ方法で九番の右をやれば胆石の痛みに、十一番の左をやれば胃潰瘍か胃痙攣の痛みに効果がある。腰椎二番の左をやれば、腸捻転や内臓の痛みを止められる。

それから、暑さで汗が出過ぎて小便が出ないという場合には、脚の内股を押せば、汗が小便の方にまわる。

 

きようはこの辺で終わります。