野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶⅢ(68)一側を読む

I先生「前回は頭部調律点の復習をしましたが、今日は背骨の触り方についての復習を行ってみたいと思います。」

 

頭部をやる場合に、「叩く」、「押さえる」、「愉気する」の三通りの方法がありました。場所は、大部分が頭の骨と骨の縫合部というつなぎ目にあります。頭が疲れたときに鉢巻をするとスッキリするというように、疲れると頭が大きくなってくる。その逆に頭が過敏状態だと小さくなってくる。そういうように縫合部で伸び縮みしている。

 

これまで何度も説明してきましたが、頭からの中枢神経は脊髄に行く。この神経を椎骨が被っている。椎骨一つ一つは、揺すぶると単独で動く。だから、ある部分で曲がると、その椎間孔から出ている神経やリンパ管が圧迫されてその機能が鈍くなる。

椎骨のわずかな歪みが、かなり体に影響を及ぼす。歪んだまま古くなると、自然に治ることが難しくなる。

椎骨の可動性を調べるというのは、その椎骨が自分でひとりでに治るような歪みなのかどうかを調べることで、単に曲がっているかどうかを見るのではない。

過敏な処にはみな痛みが生じる。揺すぶっても鈍い骨は、ジーっと押さえていくとじわじわと痛みが生じてくる。その痛みを「圧痛」というが、鈍り切った骨はこの圧痛も生じない。自分ではその骨が曲がっていることさえ感じなくなっている。細かく言うと、鈍りの状態を十段階に分けて表現することもある。「三の鈍り」「五の鈍り」といった具合に。

椎骨の可動性は、これまでやってきたようにうつ伏せで行うが、五番から上を調べる場合はまっすぐ下を向いた状態にする。六番から下は、楽な方に向いて構わない。

動かないのは硬い、飛び出して見える。過敏なのは柔らかい、多く動く。圧痛か過敏の骨を見つけたら、その骨の転位状況を見る。上とくっついているか、下とくっついているか。右か左に曲がっているか。多くは、曲がっている骨と圧痛、過敏のある骨とは一致している。

まず、可動性の悪い骨だけを操法します。

胸椎五番と十番は、可動性が普通でも、他と比べると少し鈍い。そのため、可動性を調べるのが少し難しい。それから、胸椎の十、十一、十二は強く押すと折れることがある。可動性を調べるにはせいぜい三キロから七キロぐらい。徐々に押さえていけば折れることは無いが、急にフッと力が入ると折れる。六十歳を越えた人には特に注意する必要がある。背骨を揺すぶる時は、自分の指を離さないで、いつも背骨にピタッと同じ角度で触っていることが大事。

過敏を見つけたら、骨のすぐ脇を内から外にはじいてみます。過敏な処には、細い線があります。それをはじいていくと、中に塊がある。それが「一側の硬結」。

鈍い処は、これが全部硬くなってしまっている。

一側の線、筋肉を触っていって、切れた処、そこが鈍い処で、圧痛がある。それをジーっと押さえていると、弛んでくる。そうすると硬くまとまっていたものが、ゆるんできて線がはっきり分かるようになる。この線の弛み具合で、その異常の古さが分かる。圧痛のあるところには、必ず硬結がある。

過敏な処は、筋(すじ)がはっきりしている。それは新しい。筋が硬くなっているのは古い。古くなる程、一側の線は分かりにくくなる。それで時間の経過が分かる。

棘突起を揺すぶって過敏があるのに、一側に筋が分からないようなものは、圧痛なみになっている。これは十日以上経っている。筋がすぐに触れるのは過敏になってから三、四日のものが大部分で、新しい過敏。ずっと古いのは圧痛がある。

過敏でそこに硬結がある場合は、今のその人の自覚症状と一致している。鈍い場所で硬結があるものは、多くはその時感じる異常の元になっているもので、その時感じている場所とは違うが、元になっているところのもの。

感じないものは、感じるまで愉気しないと分からない。

 

棘突起の異常を調べたら、一側の状態を調べる。

そこにバラバラとはじくような細い線と、筋肉の固まったものとがある。この細くてバラバラとはじけるものは過敏な処。一本に感じるのは普通の処である。

バラバラとはじける線は七本あるが、線が上に行くほどはっきりしていて、下の方をみるとはっきりしないというのは、エネルギーが上から下に流れている。その逆に下から上に流れる場合とがある。

仮に、下から上にエネルギーが流れている場合、たとえば腰のエネルギーが過剰になっていて胃袋が働くと、つまり性欲の食欲転換を起こすと、腰椎の三番から来たこの一側の線が、ズーと胸椎六番まで続く。

それが胸椎の八番まで続くと、胃痙攣を起こす。それが胸椎九番の左まで続くと、胆石を作る。胸椎四番まで続くと、心悸亢進を起こす。

そういう症状だけをみて、胃が悪い、心臓が悪いなどと思っていると、それは違うのです。その元は、腰椎三番の問題なのです。

身体を読むというのは、そういうエネルギーの流れを読むことでもあるのです。それを一側で読む。

我々が、上下型と言っているのは、そういうエネルギーの上がり下がりのことを指して言っているのです。上下のうち、上から下がってくるのが上型、下から上がってくるのが下型です。ともに、一側の働きが過敏な人達です。体癖というのは「操法上の問題」なんです。

下がり型というのは、頭の中で心配していることが、みんな胃腸や心臓などにきてしまう。上がり型というのは、押さえていた性欲がみな頭の働きや胃の働きに化けてしまう。だから一方は頭がお留守で、他方は性欲がお留守ということになる。

頭が主か、腰が主かというのが上下型の意味なのです。

そのうちに、それが二つに分かれて、下型でも開型と閉型というのががあるということが分かってきた。

上型でも影響が頭にくるのと、頭の影響が身体にくるのとの違いがあることが分かってきた。実際にこれらを見分けるにはかなり敏感な指を必要とします。今のところは一側の線が七本バラバラとなるか、一本だけコツンコツンとなるか、いくら触ってもゴリゴリっというだけでゴツンとした糸を引くような線がないとか、その三つが見分けられれば十分に実用になる。

硬結のある場合は、相手の自覚的な異常と一致した場所である。線が太くなっているものは古い。過去のものであるが、今の自覚的な異常の元になっている。それを正すと、今の自覚的な異常感はなくなってくる。当人は左がおかしいといっているのに、右に太くて硬結がある場合は、右を揺すぶると、左はいつの間にかなくなってしまう。

そういう相手の感じている処からやるのではなくて、こちらの感じた古い方からやっていくのが順序です。

あわせて、一側の硬結、上下の傾向、下から触ってわかるものは上からのもの。上からやってよく分かるのは下から来ている。

慣れないうちは、脊椎の可動性だけ分かればいい。上からとか下からとか分かるのは高等の人達です。慣れてくれば、分かるようになってきます。

一側の、上から来ている線が分かりにくいものは、頸上の一番から上を、上げていくように押さえていって、最後に後頭骨を上げると、その側の一側の線が上から来ているものは弛みます。

下から来た一側の硬直は、腰椎の二番を押して、お尻を上げるように押すと、つまり骨盤を縮めるように何回かすると弛んできます。

それをやってから一側を確かめると、より分かりやすくなります。

棘突起が筋肉に埋まったようになっていて判りにくい場合は、腰椎三番を少し揺すぶってみるか、上頸を持ち上げるようにするか、あるいは胸椎十一番を押さえて、相手の息を吐かせ、吐いたらまた吐かせと、弛めないで吐かせて、そしていきなりフッと弛めて、相手にフーっと深い呼吸をさせると、筋肉が弛んで背骨がよく分かる。

 

可動性を調べながら、「過敏」、「圧痛」、「何も感じない」ということを確かめる。「圧痛」というのは「古くなっ過敏」。「何も感じない」のは「古い圧痛」である。

それらを調律していくと、鈍い処は「圧痛」が出てくる。圧痛は「過敏」に変化していく。過敏は「正常」に戻っていく。そういう経路を辿っていく。

だから操法して「過敏」が出てきたら、恢復傾向だと考えればいい。今現在、「過敏」だけであるなら、それは急性的なものだと考えればいい。

 

胸椎の一番から三番、または五番まで一側がズーっと通して過敏なことがある。これは風邪を引いた時です。風邪を引くと、圧痛のところまで過敏になります。風邪を引くと、皮膚の表面が熱くなって、それで椎骨の可動性が非常に良くなってくる。それでいて頬は冷たい。額は熱いが、頬は冷たい。顔は冷たい。首は熱い、特殊な熱さがある。

それ以外に一側に過敏が続くものは、ヒステリーの人。過敏がまとまって幾つか続くが、普通は一つか二つの過敏があるだけで、いくつも続くということは少ない。一般にヒステリーのものは腰から来ている傾向で、過敏が続いている。上からの傾向で続いている場合、は風邪とみて間違いない。

風邪でも、咳が続いているような場合は、胸椎の一番か二番に必ず過敏がある。こういう場合は、腕の操法点のどこかに異常があって、それを調節すると咳が楽になってくる。操法したての時は、一時咳は多く出る、そして良くなっていく。

胸椎四番、三番だけが過敏の場合は、呼吸器に強く影響を及ぼしている風邪である。

胸椎三番、四番がくっついて圧痛になっているのは、肺の病気です。

胸椎四番左に硬結があって、可動性が鈍い場合、三番は異常が無く四番手だけ可動性が鈍い場合は、心臓の異常である。肺の異常ではない。

胸椎三番は肺である。肺の病気も、過敏なうちは三番から七番までみんな続いて過敏になっている。こういう場合は、肺炎のような比較的急激な変化のある故障のことが多い。ズーっと過敏続いていて、八番に硬結がある場合は、肋膜の異常である。

胸椎の九番の右が硬くなっている場合は、ほとんど胆嚢系統の異常である。

肝臓の異常は三側に現れるが、胆嚢は一側に現れる。そのほとんどが、「下からくる」系統のものである。胆石というのは精液と同じコレステリンという抗生物質で出来ている。そういうものの塊とみていい。

下からくるもので、胸椎の三番、四番につながっている場合は、肺というよりはお乳の異常とみる方が本当です。お乳の異常、また迷走神経の緊張過度状態。

胸椎五番、六番は胃袋関係。下からそこに来たのであれば、性欲の食欲転換であり、上から来た線がそこで止まっておれば、空想すると食欲が出る。観念による食欲。

胸椎の八番は胃の痛み。、硬結があれば肋膜、九番の左は胃袋の血行不良。十番、十一番は拡張。十番は腎臓に関係がある。この場合、ほとんどが上からか、下からかの影響で、それ自体の変動はない。

緊張すると小便がしたくなる、頭を使いだしたら無闇にいきたくなるというのは、同じ十番でも上から来ている。

開閉型の十番の異常は、性欲が起こると上に行く。性欲がストップすると小便が多くなる。性欲が起こると、性欲の代わりに小便がしたくなる。そういうのは下から来た十番の異常である。

試験場に行くとすぐに便所に行きたくなるというのは、頭が緊張すると十番に来る、上型の上捻れである。

十一番にそういうことがあると、今食べたのに、間際までお菓子を食べていたのに、十二時になるとお腹が空いたと思う。十一番が捻れると、急速にお腹が空く。

 

練習

こういうように、脊椎の可動性と、一側における上下の線の変化を見ていく。頭と腰に関連している線を探りながら、そういうことを読んでいくのです。

そういう線が一本の線以外にもあるということを確かめながら調べていく。一本の線の他に、固まった線がある。その固まった線の節目の中に、それをソーっと愉気していると、凹んできて、凹んだ時に擦ると別の一本の線がある。それを更に愉気していると、そこがバラバラとなる事を確かめてください。

練習では、まず胸椎の一側を対象にします。

ではやってみて下さい。判りましたか。急がないで、少しずつ練習を続けていって下さい。

 

以上で、第三回目の整体操法講座を終わります。次回までの二週間で、バラバラを確かめられるように練習してきてください。