野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(2)上肢調律点の観察と呼吸のリードの仕方

上肢調律点に触れる練習

先回述べた偏り疲労が、からだの急所に生じると、打撲したときのように、いろいろなところにその影響が生じる。

急所の打撲というのは、たとえば足の甲の第四指と第五指の間を強く打つとひっくり返ってしまう。上肢第四を強打すると手を握っていられなくなる。肋骨の七枚目を強打すると三日たって喀血する。尾骨を強打すると頭の中に出血する。眉間だと頭を鈍くする。手の親指を強打すると、感覚神経が鈍る。また、ここに偏り疲労が生じると、失語症や脳溢血や早死につながる。

足の第二指の根元に偏り疲労が生じるとからだが中毒しやすくなる。首筋に偏り疲労が生じると、腰が強張ってきて、老化が急速に進む。

手の親指の付け根と人差し指の間の第二調律点は、からだのそのリズムを調節する急所であり、心臓の急所でもある。ここが分厚くなっているのは心臓が弱い。登山をするとこの部分が固くなり、ドキドキと脈打つ。人差し指側に偏り疲労が生じているのは食べすぎや便秘。ニキビや面疔にも関係している。

肘に偏り疲労が生じるとやる気があるのに行動に結び付かない、空腹感があるのに食べるとすぐにいっぱいになる。

上肢第五は、肘の部分の押さえると小指に響くところ、肘を曲げると一番しわがよるところの二か所。ここは体の内側の化膿活点。

上肢第五の触れ方は、まず相手の注意をそこに集める。相手の息を吐かさないように、パッと押さえて、自分のほうへ引っ張る。相手は息を吸う迄離れられない。息を吐くと自分の方に寄って来るから、吸いに移ろうとするときに捻ってからからだを戻す。

上肢第六は、他の上肢調律点がすべて相手が息を吐いたときに押さえると痛く感じるが、ここは相手が息あを止めた時に痛く感じる。この調律点は、体表の化膿した部分を調整するところ。化膿は自然良能の一つだが、化膿しないからだを化膿できるようにするところでもある。白血病や敗血症の場合にはここに塊が生じていない。ここを刺戟して硬結が生じてくれば改善する。

上肢第七(三か所)は、頭と手のつながりの状態を確認するところ。三角筋の下に指を入れて押さえる。

三角筋の中央は上肢と体との関連を調べるところ。ここが穴になっており、そこを押して圧痛があれば関連している。穴がない時は、体に異常がある場合でも、上肢との関連性はない。

 

相手の呼吸をリードする押さえ方の練習

押さえるのは自分の力で押すのではない。そうではなくて相手のからだが緊張したり弛んだりすることを利用するだけである。整体操法は相手の呼吸の間隙という一瞬に近い時間だけしか有効にならない。それ以外は無駄な時間である。無駄な時間をなくすために、吐ききった瞬間や吸い切った瞬間に押さえるだけで、その瞬間しか力は使わない。瞬間に使う力も、相手の動きでそれをつかまえだしていく。

相手を押さえるときに、必ず相手の体が動く。自分だけが動くということはなくて、相手が動いている。上肢調律点の七つはすべて、自分は動かないが、相手が動き、それによって相手自身で呼吸の間隙を作っていく。

息を止めれば、次に吐くときの息は長くなる。いっぱい吐かせてしまえば、吸うときは慌てて吸う。そのようにして相手の呼吸をリードしていく。

ある「処」を押す場合に、ただそこだけを押すのではなく、処を活かすという行きかたが必要になる。

相手の呼吸をリードして、呼吸の間隙に力を動かす。こちらの知からではなく、相手がいままで入っていて、その力が急に抜けるということでもいいし、抜けているところに急に力が入るというのでもいい。慣れないうちは力を入れないと強く押さえられないし、相手に力を感じさせることもできない。静かに押さえるように言うと、自分の力を弱くして押さえると思いがちだが、それは錯覚である。強い力を弱く感じさせ、弱い力を強く感じさせるのが技術である。

相手の呼吸の速度に添って押さえていけば、あいては押されていることを意識しない。それより早くても遅くても相手は意識する。だからそーっと触っても痛く感じるし、逆に相手の呼吸の速度で押さえれば骨折しているところでも痛くは感じない。

痛くさせる技術だでなく、病んでいるところを痛くなく触わらなければならない。特に腹部の観察の際には、呼吸の速度と一緒でないと息を止めてしまい、手が入らなくなってしまう。

操法の一番大切な技術は、最初に触れるときに、相手の吐く息の速度で触れることである。触れることが、相手に刺戟として感じさせないで、弛めさせることである。

その逆に、こちらの手の力を感じさせるためには、相手の吸う息に添って触っていく。吸う速度を破って押さえると、ちょっとした力でも相手は強く感じる。

今回の上肢第七の、相手に痛み感じさせる場合には、押さえていて相手の呼吸の速度を破ればいい。息を吸いも吐きもしないその一瞬がくると、その痛みは頂点に達する。その頂点に、ちょっと力を加える、あるいは押さえている角度を変える。相手の力でもいいし、自分の力でもいい。

 

 

(参考)上記の私の講義記録・メモには、厳密さや正確さに欠ける表現も多いと思われるので、正確さを期すために、関連する野口晴哉氏の文献を引用することにする。 

 

技(「整体操法読本第一巻総論」より)

「処」を整体操法の目的のもとに手指に気を集め、相手の気をその部に捉えて押圧することを「整圧」と申します。・・その整圧を行なう原理として、度、機、息に依り、之によって行う整圧を技というのであります。・・力の入れ抜きの遅速、緩急は極めてむずかしく、しかし整圧は之によらねば活きないのであります。・・頸椎七は迷走神経の張力を亢めますが、その整圧の時間が長いと張力は逆に低下します。強すぎても弱すぎても反応は生じません。・・・

操法の理想は、「自分の痒いところを感ずるよう相手の異常を感じ」「自分の痒い所を掻くよう操法することでありまして、・・その目的を「相手の体のはたらきでその体を整える」ことにおき、・・操法する者の力で整える可きではない。・・・

又、技を修得するために規定された型があります。力学的に体の使い方を研究して、相手に力を入れないで指を使う方法で、練習の為に定められたものを練習型、一般施法の為定められた型を基本形と称し、型によって技を修めること・・であります。

 

頭部に於ける整圧点及び活点(「整体操法読本巻二実技」より)

整体操法に於いては頭部は輸気の急所ではあるが、整圧の急所ではない。頭部整圧点が五か所しかないのはその為である。・・・

頭部の整圧はこの縫合部の緊張弛緩が行われなくなって緊(ひきし)まって硬結を生じ、弛んでひきしまらぬ場合に、刺戟を与える意味で行われる。

頭部活点は叩打する操法を行う・・・

 

四肢に於ける整圧点及び活点(同上書より)

立ち上がった人間がその手の価値を発揮したのは、その拇指が他の四指と対抗して動くように使ったことに始まる。文明の今日この如くあるのは全く拇指の力である。・・それ故、手の第一整圧点は拇指根にあるのだ。第二が掌の中央にあるのも、その握る力の集まる中心点なるがゆえだ。手首外側(第三整圧点)も・・手指を動かす力のよりどころであるから整圧の急所がある。・・食指の疲労はまず橈骨のそばの手の三里といわれるところが凝る。そこが第四整圧点だ。肘のうしろに圧すると小指にひびく処がある。それが第五整圧点だ。二頭わん筋と三頭わん筋の間に、圧すると拇指の力の抜ける処がある、・・第六はここだ。この第五と第六は化膿を急転させる急所である。第七整圧点は、三角筋と三頭わん筋の境である。頭と指の連絡をよくするところである。・・・操法が刺戟と反応を中心として構成される限り、神経中枢の或る変化を誘うには、これを抹消でー肩よりは腕、腕よりは指、人間は抹消ほど敏感だー刺戟することが合理的だ。脊椎に刺戟を与える考え方よりさらに生理的である。