野口整体を愉しむ

未来を先どりする野口晴哉の思想と技法

整体操法の基礎を学ぶ(14)下肢操法

新シリーズ第二回目(通算第14回)の今回は、「下肢操法」がテーマです。目指すべき美しい頂上は遥か彼方で、裾野の草木を押し分けながら、すこしずつループ状に歩みを前に進めることしか出来ませんが、それでも野口氏の導きの糸は、はっきりと示されています。途方に暮れることもしばしばですが、一緒に愉しんでいきましょう。実習についての記述はことのほか難しくて、このブログを読むだけでは伝えきれない部分がどうしても残ります。しかも指導者が手取り足取り教えてくださってなお、身に着けることが難しいので、正直いって私には荷が重すぎます。申し訳ありません。

 

運動系の癖の始まりは足にある

お尻を曲げて歩く人がいる。振って歩く人もいる。そうなるのは、右と左の歩幅に差があるからである。その左右差を調節しようとして歩幅の狭い方の腕を余分に振ることで調節して歩いている。ところがその調節だけでは間に合わなくなると、お尻まで振るようになる。こうした傾向は、一つは頭の中で調節してそういう運動が出ているという面と、他方で、足自体が狂っていて、その結果でそういう運動になっているという面と両方あります。しかし、からだの異常や体運動の異常というもののなかで、足の異常が影響しているということが、考えている以上に多いのであります。

 

下肢の異常による影響

生理がいつまでも止まらないというのは足首の異常の場合が多い。生理痛がひどい人の多くは股関節に異常がある。尿が漏れそうで我慢ができない、ところがいざしようとすると出ないといった尿の逆反射現象は、左足の内股の故障。足の冷えでなる風邪とか、足の甲の縮みによる腹痛など、足から出発している病的兆候は結構多い。

足の前ばかりに力が掛かっていたり、片足立ちして一方はちゃんと立てるのに、もう一方はふらふらしてしまう、というような場合、足の筋肉の伸縮が、頭で無意識に調節しようとしてそれが調節し切れない状態になっている。

足のどこかに、そういった調節しきれない状態の場所が生じると、その処に関連のある神経系統の働きや、臓器の働きに変動を起こしてくる。

左足の小指に異常があると、痔が出る。くるぶしが下垂すると、耳鳴りがしたり中耳炎になる。膝関節の異常による生殖器の知覚異常。肝臓、胆嚢、胆石は足の第四指と第五指の間と関連。ここは、予防接種で脾臓に負担がかかり、発熱や発疹が出た場合に愉気するといい処。

腸に異常がある人は、脚がだるくなる。泌尿器異常は脚が重くなる。だるくなるのは上腿(じょうたい)部外側が伸縮しなくなるからである。重くなるのは内側に力が入りきりで弛まないからである。そういう時、そこを押さえると痛いが、良くなる。下痢していればそれが止まり、便秘していればそれが治っていく。特に便秘は足の故障の場合が多い。顔の表情のこわばりのようなものでも、足の運動状態に関係があり、足首を治すとスムーズに笑えるようになる。

死ぬ間際になると足がむくんでくるが、人間は足から年をとり、足から死んでいくと言ってもいいくらいで、年をとりだすと先ず足が細くなってくる。そしてお尻が小さくなってくる。体が成長すると足がキチンとしてくる。現代では足が細いときれいだなんて言っているが、生殖器の未熟な人達はみな足が細い。太すぎるのは鈍いが、いずれにしても足の伸縮がキチンとしてくると生殖器の発育もキチンとする。

足は生殖器と一番関係があるが、内股は泌尿器に関係、外側は腸に関係、足首から先は咽喉や耳などの感覚器に関連する。特に、足の親指は鈍くなると全体の知覚が鈍くなってくる。足の親指の内側は、肝臓が鈍ってくると特別痛くなる。中毒したときは、足の裏側の、人差指を折り曲げてつく処が、まったく鈍ってしまう。そこへ焼け火箸を当てても熱くない。そこが熱く感じるようになれば、中毒症状も治まりかけている。

 

下肢操法を行う理由

足の操法は、足の異常を治すためにするのではない。それは、体全体のバランスをとる為におこなう。だから、足のどの部分の筋肉の伸縮が悪いかを見つけて、そこを対象にする場合と、体のなかのいろいろな臓器の変動を調節していく場合とがある。もちろん、狭い意味での足自体の異常を抜くために操法することもある。

 

胸が狭いというのも、たぶんに足の影響があり、尾骨の位置が変わるようにすると、胸が拡がりだしてくる。歩くという運動が体のいろんな面に影響を与えるが、毎日一定時間一定距離を歩くよう無痛分娩や健康法として指導することがあるが、その場合は自分の歩幅ではなく大股で歩かなくては効果がない。自分の歩幅だと歩いても疲れないし、足に影響を与えない。普通に歩いている中に、余分に大股で歩くとか、極端に遅く長く歩くことを混ぜると、二十分とか三十分の動きでいろいろな効果を発揮する。

歩き方とか、足の位置とかいうのは、重要な問題であるが、たとえば上下型二種は、爪先から着けて歩くが、それ以外の傾向の人が足首の故障から同様の歩き方をしている場合、二種と同じように活発だった人が急に陰気になったり、内向的になる。

従って、足の操法をする場合、単に足だけを対象にしないで、その人の生きている姿全体に働きかけるという考え方で行ってほしい。

足の操法には、足の力を利用して背骨や手足の骨格を修正する方法がある。整体操法のなかには、相手の重心を移動させる操法とか、足を持ち上げておいて落とし、その反動を利用して体の骨組みに働きかける矯体操法とか、足に力を入れたり抜いたりする整体体操などがあるが、それらは、いずれも足を対象にしている。極端に言えば、相手を変化させるためには足の操法でいいと言えるほどに、重要であり、他の操法すべてに影響している。

下肢操法の実習

1)膝より上外側の三か所

ここは、主に腸が対象。一番上は、真横に押さえる。真中も真横に、膝のすぐ上の三番目は上に持ち上げるように押さえる。一番上と真中は消化器に関連しているが、三番目は生殖器と関連する。淋病をやった人はここに硬結がある。不妊症のなかに、ここに異常がある人が多い。

ここの三か所の押さえ方は、体の他の処の押し方と異なり、相手が息を吸いこんだ時に押さえる。押さえる前に、膝を立てて上から順に叩く。叩きながら、どこが一番手ごたえがあるかを見る。三番目を叩き終えたら、足を伸ばす。その伸ばすとき、緊張がしていて力が抜けきらないうちに、二番目と三番目を押さえる。これが型としての正式な押さえ方。押す要領は、強く押すのではなく、相手に息をつめさせて、吐く前に押さえること。相手に痛く感じさせるように押さえる。力ではなく、速度が必要。ゆっくりジワジワと押さえてはいけない、トンと叩いてフッと押さえる。

2)膝から下

膝から下の内側、ここも押さえると痛い処。膝を立てて、親指を除く四指で押す。もう一方の手で、角度を合わせるように向こう側に押す。これをやる時は相手のお尻が浮いて来ることが要点。浮かして、どこで逃げるかを観察する。

膝から下の外側、ここの場所は膝蓋骨の下に手を当てて、四本目の指が当たるところ。これを一旦外からゴリっと骨の角までもってきて下に押す。

大腿外側の三番目と、膝の下の内側に続く足首の二つの筋肉の外側、ここは生殖器に関係する処。足首の内側の筋肉は、消化器に関係する処。足首を調べて、外側だったら大腿筋外側の三番目の内脚を押さえる。足首を調べて、内側だったら、大腿筋外側の一番、二番、外脚、足首内側を押さえる。食欲系統の最終は、親指の爪の脇。生殖器系は踵。めまいや吐き気という中には、生殖器系の影響を受けていることが多いが、踵の処を押さえていると整ってくる。

3)大腿内側

左の内側は泌尿器に関係がある。右側は、虫様突起炎の場合に臨時に使う。体液が停頓すると足がだるくなったり、重くなったりするが、内股を押さえると整う。お腹にガスがたまるような停頓状態にもここを押す。ガスがたまるのは、腎臓や肝臓との関連。

4)膝の裏(下肢の急所。いじると体を壊すので、練習はしない)

生殖器の一番の急所は膝の裏の一番へこんでいる処。ここを内側に開くように押さえると泌尿器の調整になる。睾丸炎の痛みも変化する。

また、この膝裏の真中を押さえ、下に向けるようにすると、腸の調整になる。

5)足首の回転

足首の回転を行う。一方の手を踵にあて、片方の手で相手の足親指をつかんで回す。上手になると、親指は親指で動き、足首は足首で動くという二重の回転になる。これは泌尿器に影響する。足首の回転をした後、土踏まずをギュッと押さえておく。土踏まずは泌尿器と呼吸器に関連する。足の裏を強く打撲すると呼吸器の病気になる。土踏まずの近くが鈍ると、足がむくむ。

6)その他の処

頭の異常の場合、アキレス腱が冷たく縮んでくる。アキレス腱を静かに押さえていると大脳の過労がとれて頭が休まってくる。試験前の不安などで爪先で歩くようになるのは、アキレス腱が縮んで踵が地につかなくなるため。ここは、強く押してはいけない。そっと押さえて愉気をする。

足自体に異常がある場合は、お尻の一番へこんでいる坐骨神経の出ている処を押す。坐骨神経痛のときは、ここを一分以上ズーっとおさえて、その後で膝裏を押さえると一時的に痛みが変化する。

足を骨折したときもここを押さえると、繋がりが早くなる。

 

矯体操法

前立腺の異常で、尿が出にくいとか、それが習慣的になっているのは、股関節自体が内股に余分に入るような骨盤の下がり方をしている。

それ(排尿困難)を調整するには、仰臥で、まず相手の右足を押さえる。次に左足をくの字に曲げさせ、足先を外に開くようにして引っ張り、フッと放す。続いて、左足の裏筋肉を引っ張りながら、一方の手で上側も同方向にまっすぐに引っ張ってストンと落とす。

この一連の操法を、右足で行えば、排便誘導になる。

腰椎の矯正は、横臥。腰の痛い方を下にする。肩と腰に手を添えて、相手の体を捩じって構える。相手が吐くまで待って、吐き切ったところでちょっと力を加える。